発端はある夏の日のことだった。
 夏は暑いものだが、その夏は例年を上回る猛暑でもって幻想郷を茹だらせていた。
 昼は日光で幻想郷をじりじりと焼いて、夕方から夜にかけては昼間の余熱でちりちり炙って、夜から深夜にかけては地面からの放熱でふすふす蒸して。
 そんなクソ参るような、ある夏の日。不穏な妖霧が静かに幻想郷を包み始めた。
 あたかも、日がな一日お天道様に照らされてあっついのに嫌気が差した幻想郷が日の光を避けるかの様に。

 しかもこの妖霧。どういうわけだか中に入ると弾幕が張れなくなる。

 天日干しでほこほこになった布団でくかーと寝るのが大好きな博麗神社の巫女さん、博麗霊夢。
 この霧で日光が遮られて洗濯物がかわかない。大好きなお日様の匂いのするほこほこ布団も日光が届かないからできやしない。
 ちょこっとフラストレーションの溜まった巫女さんは、原因を取っちめて霧を止めてやろうと、直感を頼りに神社の裏の方向にある湖の方へ出かけていった。
 いつもだったらさーっと行ってさーっと元凶をしばいてとっちめて事件を解決しちまうこの巫女さんが困った顔で帰ってきた。
「一体この霧なんなのよー。お札もアミュレットも針も陰陽玉もスペルカードもまともに飛ばないじゃないのよー」
 実は妖霧の中で巫女さんは変なヤツに出くわした。
 頭は金色、身体は黒が大半のなにやら大きな人型で金属っぽいヤツだ。
『美味しそうな匂いがするー……』
 と一言言って、そいつは弾幕ごっこを仕掛けてきた。手に持ってる黒い筒状の物からばらたたたたとと巫女さん狙って弾が飛んでくる。
 しかし巫女さんとて弾幕ごっこは得意中の得意。ひらりひらりと弾をかわして返すお払い棒で弾幕を張り返した。
 ところが困ったことに弾は真っ直ぐ飛ばない。射程なんか全然ない。当たったところで効きやしない。これはヤバイとスペルカードを使ったもののこれも全く通用しない。
 そんなわけで巫女さん、ほうほうの体で逃げ出した。
「くぅーっ。このままじゃダメだわ。とりあえず霖之助さんのところに行ってみよう」
 修行をしようとは全く思わない巫女さんは逃げ出した足で香霖堂と呼ばれる古道具屋へ飛んでった。
 何か使えそうな物がないかかっぱぎに。





 普通の少女で奇妙な魔法使いさん、霧雨魔理沙は愛用の箒に跨って空を飛んでいた。
 散歩がてらのフライトで気付いたのは妖霧が辺りに立ち込めていることと、その発生源がどうも眼下の湖っぽいこと。
 勘が普通の少女で魔法使いさんは湖の島に原因がありそうだと思った。
「どれ、何かめぼしいものでもあるかな?」
 と、霧の中に潜っていった魔法使いさん。そこでなにやら寒くていっぱいいっぱいなのに出くわした。
『もう二度と陸には上がらせないよ!』
 頭は水色、身体は青が大半のなにやら大きな人型で金属っぽいヤツだ。
 そいつは魔理沙を見るなり弾幕ごっこを仕掛けてきた。両手に持った黒い筒状の物からドッパンドッパン散弾が飛んでくる。
 しかしこの魔法使いさんも弾幕ごっこにはちょいと五月蝿いツワモノ。ひょいひょいと弾をかわして得意の魔法で弾幕を張り返す。
 ……ところが困ったことに弾が真っ直ぐに飛ばない。あさっての方向に弾は飛んでくはレーザーはひん曲がるわのダメダメさ。
 必殺の魔砲も霧散しちゃって効果なし。
 ダメだこりゃ。と魔法使いさん、最大戦速で霧の中から逃げ出した。
「一体どうなってるんだ? とりあえず癪だから香霖のところでお茶でもしばくか。寒いし」
 寒がりと負けず嫌いの魔法使いさんは知り合いの古道具屋へ飛んでくことにした。





 森の入口にある古道具屋、それが森近霖之助がやっている『香霖堂』だった。
 店先にふよふよと飛んできた霊夢が着地するのと、すいーっと箒で飛んできた魔理沙が着陸するのは殆ど同時だった。
「あら魔理沙」
「よう霊夢」
 二人が店内に入ると、「いらっしゃい」と声がした。店主の霖之助である。
 霖之助はカウンター内で椅子に腰掛け、本を読んでいた。
「あー、香霖。お茶くれ」
「霊夢がお茶を淹れるみたいだから相伴に預かってくれ」
 霖之助の言葉通り、勝手知ったる人の家と霊夢はすいすい上がりこんでお茶の支度を始めていた。
 慣れと諦めがないまぜになったような感情を覚えつつ、霖之助はページを繰った。

 まるで自分の家のように手早くお茶の支度を済ませ、霊夢と魔理沙は緑茶を啜った。
 ほぅ、と一息つく。
 そして二人はさて、とどちらとなく口を開いた。
「かくかくしかじかでこの霧の元凶を探しに行ったんだけどね。途中で変な鉄の妖怪に阻まれちゃったのよ。こっちの攻撃はまともに届かないし、当たっても全然効いてないみたいだし。霖之助さん、何かいい道具はないかしら?」
「私もかくかくしかじかで湖の辺りで変な鉄の妖怪に出くわして、あとは霊夢と同じだ。香霖、何かないか?」
 少女二人の問いに、霖之助は、「ふむ」、と頷いて開いていた本に栞を挟んで閉じた。そして立ち上がり、
「ついてきたまえ」
 言って店の外へ出て行った。
 少女二人も続いて外へ出る。湖から発生した霧は香霖堂の付近にも漂い、視界を濁らせていた。
 店の裏手へ歩いていく霖之助を見失わないように二人は続いた。
 店の裏手には地下へ降りていく階段があり、その先には鉄扉が立ちはだかっていた。
 霖之助は鉄扉の前まで行くと、二人の目の前で鍵を開け、扉を開いて中へ入っていった。
 鉄扉の奥にはさらに地下へ下りていく階段が続いていた。鉄扉の内側に提げられたカンテラに火を灯して持ち、霖之助は階段を数歩下りた。
「扉を閉めてくれ」
 言われた通りに魔理沙と霊夢は鉄扉に手をかけて閉ざした。
 霖之助の持つカンテラが頼りなく暗い下り階段を照らす。
「足元に注意してくれよ。後ろからぶつかられるのはごめんだからね」
 注意を促して霖之助はゆっくりと階段を下りていく。
「なあ、香霖? 何時の間にこんなのこさえたんだ?」
 暗闇の中を下りていきながら魔理沙が疑問を問うた。
「さて、何時だったかな」
 ひょう、ととぼける霖之助。
「この先に何があるのかしら、霖之助さん?」
「君たちお望みの何かいい道具、と今は答えておこうかな」
 霊夢の問いにぼかして答える霖之助。
 それから三人は数分ばかり階段を下り続け、また鉄扉に遮られた。
 鉄扉の上方に生えたフックにカンテラを引っ掛け、霖之助は鉄扉の鍵を開けた。扉を押し開けて、カンテラを吹き消す。
 辺りは闇に支配された。
「暗いぜ香霖」
「見えないわ霖之助さん」
「今明るくするよ」
 言って霖之助は手探りで扉の内に広がる闇の壁のレバーを掴んだ。上がっていたレバーを下げる。
 空間は光に照らし出された。

 そこは広大な地下室だった。
 床から壁に至るまでコンクリートが張られた頑強そうな地下室。
 地下室の壁際には様々な機材が点々と置かれていた。
 そして、その機材の中にその『二機』は立っていた。

「こ、こいつは!?」
「あの変な鉄の妖怪!?」

 咄嗟に身構える霊夢と魔理沙。
 だがその『鉄の妖怪』はピクリとも動かない。
 怪訝そうに『鉄の妖怪』と霖之助を見比べる二人。
「香霖、こいつは一体……?」
「色んな呼び方があるんだが……まあ鉄でできた式みたいなものだよ」
「式……なの? これ?」
「ああ。……もっとも。これらには操縦者が乗り込まなければならないんだけどね」
 鉄で出来た式みたいなもの、と繰り返す二人。
「これがあればさっき言っていた『鉄の妖怪』にも対抗できるよ。何せ同じものだからね」
「しっかし……香霖、何時の間にこんなものを……」
「こんなこともあろうかとね、作っておいたんだ。――こんなこともあろうかと、ね」
「でも私、動かし方なんかわからないわよ?」
 もっともな話だった。初めて見たものの動かし方なんて、普通わかるものではない。
 だが霖之助は一言で済ませた。
「能書きはいい。乗ればわかる」
「いや……乗れば分かるって、お前な……」
「君たちは自分がどうやって息をしているのか、どうやって水を飲むのか考えたことがあるかい? そういうことなんだ」
 さ、乗った乗った、と二人の背を押す霖之助。
 促されるままに、霊夢は紅白のカラーリングが施された機体に乗り込んだ。
 魔理沙も黒白のカラーリングが施され、ウィッチハットのような頭部形状をした機体に乗り込む。
 二人は”何故か”、”次にどうすればいいのか”が分かっていた。

 目の前のコンソールパネルのボタンを押し、ハッチを閉鎖。――システム起動。

 二人の乗り込んだ機体の目に当たる部分が光った。

 真っ暗だったコックピットが明るくなり、外部の様子が映し出される。
 首を巡らせて、『空を飛んでいるときみたい』と、二人は思った。
 シートベルトを締めて、前にある二本のレバーを両手で掴む。
 二人ともなんとなく、分かってきていた。
 ああ、そういうことなのか、と。

『どうだい。僕の言ったことの意味がわかったかな?』
 コックピット内のスピーカーから霖之助の声。

「ああ、なんとなくな」
「うん。大丈夫。動かせそう」
 言葉を証明するかの様に、魔理沙は乗機の左手を目の前で握って開いて見せる。霊夢は乗機を二、三歩歩かせた。
 しばらく二人は慣らしをするように機体を動かした。両手を握ったり開いたり、腕を曲げたり伸ばしたり、おおよそ準備体操めいたことをして、二人は機体を止めた。
「よーしよし。大丈夫だぜ」
「全然。なんてことなかったわね」
「よし。それじゃ出撃と行こうか」
 二人の機体操作に巻き込まれないように、壁際に退避していた霖之助はさっきの明かりとは違うレバーを下げた。
 天井の一部が動いて、夜空を覗かせる。
 何時の間にか夜の帳が下りていた。
「それじゃ、いってくるぜ香霖」
「いってきます。霖之助さん」
「よろしく頼むよ。こう霧が濃くっちゃあぶなくておちおち出歩けもしないんだ」
 ふわり、と二機が浮かび上がり、ゆっくりと上昇を始めた。徐々に速度を上げていき、二機は外へ飛び出した。
『ああ、言い忘れていたことがあったよ』
 飛行進路を神社方面から湖にとった二人の耳に、霖之助の声が聞こえてきた。
「言い忘れていたこと?」
 霊夢が聞き返す。
『紅白の機体は『博麗』、白黒のは『霧雨』って名前だ。覚えておいてくれ』
「『博麗』……」
「『霧雨』、か……」
「「なんで私の苗字なの?」なんだ?」
『なんとなく、だよ。他意はない』
「「……まあ、いっか」」
『それから僕も微力ながら君たちを通信でサポートさせてもらう。よろしく』





 夜闇を『博麗』と『霧雨』が行く。
 コックピット内の二人は月明かりを頼りに、薄霧と夜闇の中、それぞれの機体を飛ばしていた。
「不思議な気分ね」
 唐突に霊夢が言った。
「どした? 何か言ったか?」
 魔理沙が聞いた。『博麗』と『霧雨』はお互いの通信回線がオープンになっているので、通信回線を切らない限り、声は筒抜けになる。
「視界は自分で飛んでいるのと殆ど変わらないのに、身体が風を感じないし、外気も感じない。ちょっと不思議な気分にもなるわ」
「ああ、確かにな。風を切っていく感じがないってのいうも少し寂しいような気がするぜ」
 などと言いつつも二人は自分以外の力で空を飛ぶことをそれなりに楽しんでいた。
「気持ちいいわ。夜の境内裏はロマンティックね」
「私は夜は嫌いだけどな。変な奴しかいないし」

「変な奴って誰のことよ」

 どこからとなく『博麗』『霧雨』間の通信に音声が割り込んできた。
 二人の機体コンソールが『未確認機接近』の警告音を鳴らす。
「誰もあんたのことって言ってないぜ」
 ひょう、と言う魔理沙。

 二人の前に、頭は金色で身体は黒、両肩には砲を備えた機体が、十字架にかけられた聖者みたいなポーズで現われた。
 ――霊夢が妖霧の中で遭遇したヤツだ。
 搭乗者の名前はルーミア。機体名を『宵闇』という。

「あーっ、あんた! 昼間はよくもやってくれたわね!」
「? あんた誰?」
「とぼけようったってダメよ。ちゃんとその頭が金色で身体が黒なのちゃんと覚えてるんだからね!」
 ビシッと目の前の『宵闇』を指差す『博麗』。霊夢は既に手足のように『博麗』を使いこなしている様子だった。
「えーと。その声は……美味しそうな匂いをさせてた人間!」
「思い出したみたいね」
 満足げに霊夢。
 そしてコックピット内でにまぁ、と笑うルーミア。
「今夜はごちそー。引きずり出して、いただきまーす」
 無邪気な声と裏腹に言っていることは物騒この上ない。
「良薬は口に苦しって言葉、知ってる?」
「ちなみに霊夢はしょっぱいぜ」
「変なこと言うな!」

『宵闇』は十字架聖者ポーズをやめて機体の両腿にマウントされた、サブマシンガンを両手に構えた。
 いざいざ、戦闘開始。





『宵闇』と、『博麗』『霧雨』両機の距離はミドルレンジ、といった按配に離れていた。
 殴り合いをするには遠く、射撃戦をするには都合が良いといったところの距離だ。

『宵闇』はサブマシンガンを構えると即座に撃ってきた。
『博麗』と『霧雨』は左右に散開してこれを回避。
 ここで魔理沙は重要なことに今更気付いた。
「もしかして素手で戦うのか?」
 二人の乗っている機体は共に空手である。対する相手はサブマシンガン(それも二丁)を所持している。
「あー……やばいわね、それは」
 今気付いたとばかりに汗を伝わせる霊夢。
 ルーミア操る『宵闇』はターゲットをひとまず『博麗』に決めたようで、サブマシンガンを雨あられと撃ってきた。
「そーれそれそれそれー!」
 撃ってくる様子は実に楽しげなのだが、霊夢にしてみればたまったものではない。
「わっ、たっ! ちょっとタイム!」
「弾幕ごっこに待ったなしー。わはー」
 ぱらたたたたたたたた、と鉄火のシャワーが『博麗』を襲う。
 霊夢は反撃もできず、逃げ惑うことになった。
「まてまてまてー」
「っと! うわっ! 魔理沙! なんとかして!」
『宵闇』と『博麗』は夜空の中、壮絶なドッグファイトを始めた。

「なんとか、って言われてもな……」
 なんとかしたいのは山々だが、かといって素手で突っ込んでいくわけにもいかない。
「まず武器だ。何か武器はないのか?」
 魔理沙の声に反応するかの様に、手前のコンソールが光った。ディスプレイには『霧雨』の背面図が映り、腰の辺りを指して『ショットガン』と表示している。
「よくわからないぜ。……『ショットガン』? なんだそりゃ?」
 魔理沙が考えていると、唐突にスピーカーから霖之助の声が聞こえてきた。
『魔理沙、『装備、ショットガン』と言うんだ。あとは『霧雨』が勝手にやってくれる』
「聞こえてたんならもっと早く反応しろよ香霖。で、勝手にやってくれる? よくわからんな……」
『まあそういうものなんだよ。霊夢も聞こえているだろう。そういうわけだ。やってみればすぐに分かる』
「……やってみるか。装備、ショットガン」
 魔理沙のコマンドワードを認識して『霧雨』が動いた。右手を腰にやり、そこにマウントされた黒い銃身を抜き出した。左手で銃身下部の装填機構を操作。初弾を薬室内に装填して発射可能状態にもっていく。
 コンソールディスプレイに発射可能状態を表す表示がなされたところで魔理沙にはまたなんとなく分かってきた。
「なるほど、こうか……」
 しみじみと言う魔理沙。疑念の余地はなかった。つまりはそういうものなのだ。
「魔理沙、まだなの?」
 スピーカーから霊夢の声。『博麗』は既に武器――スプレッドガン――を抜き、目の前の『宵闇』と戦っていた。
 防戦一方だったさっきとは対照的に、アクティブに攻撃に回っていた。
『宵闇』の銃火を掻い潜り、スプレッドガンをバンバン撃ち返す。
「……なんでそんなあっさりできるんだお前は」
「ん〜、なんとなく。っと。『博麗』、『ホーミングミサイル』!」
 なんとなくで戦闘操縦法を習得した霊夢はなんとなくながらしっかりと戦闘をこなしていた。
『博麗』のバックパックから数発のホーミングミサイルが飛翔。『宵闇』に命中、爆発。
「痛いー! 地味に痛いー!」
 ルーミアが泣き笑いのような悲鳴をあげる。
「……悪いが練習台になってもらうぜ」
 なんとなくで戦闘操縦を巧みにこなす天才に追いつくべく、秀才は戦闘へ殴りこんだ。

「このー! このー! このーーーー!」
 やたらめったらサブマシンガンで火線を展開する『宵闇』。
 火線に晒されている『博麗』は飄々と弾雨を擦り抜けていく。「鬼さんこちら〜」とでも聞こえてきそうな按配である。
「のわぎゃ! むぅーーーーっ!!」
 回避の合間に撃たれたスプレッド弾が『宵闇』の装甲を穿つ。
 ルーミアにしてみれば面白くない。『宵闇』がばら撒く弾はカスり程度でかわされてしまうのに、『博麗』のスプレッド弾はこれでもかとばかりに『宵闇』に命中してくるのだ。
 だからルーミアは標的を『博麗』から突っ込んでくる『霧雨』に変える事にした。
「落ちろーーーーっ!!」
『博麗』に向けていた銃口を二つとも『霧雨』に向け、『宵闇』は弾をばら撒いた。
 咄嗟に回避行動を取るも、何発かの弾が『霧雨』を叩く。
「うわっ!」
『魔理沙、攻撃はシールドで防御しろ!』
 着弾のショックにぶれる機体を制御する魔理沙の耳に霖之助からのアドバイスが飛ぶ。
 魔理沙はアドバイスを聞いたが、行動には移さなかった。霊夢が飄々と避けるなら自分だって避けてやる、とばかりに『霧雨』を加速させる。
 回避行動を取る『霧雨』にしつこく追いすがる火線をスピードで強引に振り切り、『宵闇』の真下に回りこんだ。
 ターゲット中央に『宵闇』を捉え、ショットガンを立て続けにぶっ放す。
「わーっ!? なになになに!?」
 死角から散弾を叩き込まれ、『宵闇』がスパークを散らす。
 ルーミアの前にあるコンソールはアラート音を鳴らし、赤ランプを点灯させる。
 わけもわからず真下からの散弾への回避行動を取る『宵闇』に『博麗』のスプレッドガンが襲い掛かった。
 比較的厚い正面装甲が弾着に歪み、弾痕が穿たれる。
「痛いー! 落ちるーー!」
 ここに至り、ルーミアは切り札を投入することにした。両肩部に備えた高出力レーザーカノンである。
 ルーミアはバックパックのバーニアを噴かして『宵闇』を後退させた。
 バチバチとスパークを散らしながら後退するその様は逃げていく負け犬の様に見えるが、その実はやる気満々の肉食獣。
「やってやる……目に物見せてやるぅぅ……」

 霊夢と魔理沙は離れていく『宵闇』が逃げを打っていると判断した。
『宵闇』と高度を合わせた『博麗』に『霧雨』を並ばせ、魔理沙は二機の様子を伺う。
『宵闇』は傍目から見て今にも落ちそうだった。機体から火花を散らし、のろのろと下がっていく様は満身創痍と思って相違なさそうだった。
『博麗』は霊夢がパニクっていた割には目立った損傷はなかった。表面にかすったかどうか程度の跡がある程度だ。
「(天才、か……)」
『霧雨』の機体状況もチェックする。何発か喰らったがコンソールは『損傷なし!』と表示していた。
 とはいえ、霊夢は無被弾で自分は被弾したという事実が残る。
「やれやれだぜ」
「ん? 何か言った?」
「いんや」

『エネルギー充填中……92%』
 コンソールにレーザーカノンへのエネルギー充填率が表示される。100まであと少し。
「ふーふーふー……」
 ルーミアは暗く笑った。
『エネルギー充填率100%』
 ピポ、とコンソールが音を立てて準備の完了を知らせる。
「わはーっ。必殺! ムーンライトレーーーーーイ!」
 両肩のレーザーカノンが閃光を放った。

 迸った高出力レーザーが『博麗』と『霧雨』の二機を側面から挟み込むように迫る。
 紫電を散らして空を焼き切るレーザービーム。
「え、何っ!?」
「しまった!?」
 まさか逃げを打っている『もう持ちません!』な機体が反撃してくるとは思いもしなかった二人。
『宵闇』のムーンライトレイはちょっとした不意打ちの形になった。
「回避……っ」
「くそっ、間に合わないぜ!」
 さらに、レーザーの発生と接近のスピードが物凄く速い。上下への回避が間に合わない。上に避ければ腰から下が、下に避ければ胸の半ばから上がやられる。
「魔理沙!」
「霊夢!」
 二人は打ち合わせ一切なしでお互い背中合わせになってシールドを構えた。レーザーの照射をシールドで耐え切るつもりらしい。
「防ぎきれるかしら!」
「未知数だぜ! やるしかないがな!」
 手を伸ばせば届くようなところまでレーザーが迫る。
 二人はダメージを覚悟してコックピット内で身を固くした。

 ――だがその息の合った防御は杞憂に終わる。

 ピタリと、レーザーが止まった。

 気まずい沈黙と空気が三者間に漂う。

「あ、あれ? あれれれ?」
「……」
「閉じないのか、コレ?」
 どうやら、レーザー砲の稼動角の関係で二人の機体を挟み潰すことはできないらしい。
「あ、あはははは…………」
 冷や汗を伝わせて乾いた笑いをこぼすルーミア。

 霊夢と魔理沙は深く鼻で息を吸い、ゆっくり口から吐いた。

「『霧雨』、他に武器はないか?」
「『博麗』、他に武器はないかしら?」
『霧雨』のコンソールが背面の武器パックを表示。『レーザーライフル』、『ミニミサイルマシンガン』、『ビームブルーム』。
『博麗』のコンソールが背中の武装ラッチを表示。『ニードルマシンガン』、『ビームお払い棒』。
「装備、レーザーライフル」
『霧雨』は腰にショットガンを戻し、右肩の後ろに手を回してレーザーライフルを掴んだ。
「装備、ニードルマシンガン」
 同様に『博麗』はニードルマシンガンを掴む。
 二機はレーザーカノン発射中につき座標固定中の『宵闇』にそれら物騒なものを向けた。
 オープンファイヤー。

「わーっ! わーっ! わあああああっっ!!!!」
 高速連射のニードルがたちまちのうちに『宵闇』の装甲をズタズタにしていく。スプレッドガンとは段違いの威力だ。
 ただでさえ危うい『宵闇』の機体ダメージが一気に限界レベルまで引き上げられる。
「も、もう持たないー!」
「そうかい。それじゃこいつでとどめだぜ」
 レーザーライフルの照準が、火花を散らし煙を噴く『宵闇』を捉えた。『霧雨』がトリガーを絞る。
 走る閃光が『宵闇』を撃ち抜いた。
「きゅううう…………」
 煙の尾を引いて『宵闇』が落ちていく。

「……ま、良薬っていっても飲んでみなけりゃわかんないけどね」
 からから笑って言う霊夢。昼間、一方的にやられた借りを返してご機嫌、といったところか。
「しょっぱいから良薬じゃないぜ。きっと」
 充填状態に入ったレーザーライフルの代わりにミニミサイルマシンガンを装備しつつ魔理沙。
「……うるさい」



                                                Stage clear


















――以下機体設定――


博麗霊夢搭乗機

『博麗』

搭載装備:スプレッドガン
     ニードルマシンガン
     ホーミングミサイル
     ビームお払い棒×2
     エネルギーフィールド『封魔陣』
     ホーミング光子魚雷『夢想封印』
     シールド

 霊夢のイメージカラーである紅白でカラーリングを施された機体。
 森近霖之助が”こんなこともあろうかと”こっそり蒐集した物を改修していた。
 陰陽のマークが印されたシールドとふわふわとした霊夢らしい機動が特徴。
 主兵装のスプレッドガンとホーミングミサイルで広範囲をカバー可能。ホーミングミサイルは威力を犠牲に搭載数を増やしている。
 ニードルマシンガンは霊夢のパスウェイジョンニードルをそのまま大型化したような物で威力が高い。
 ビームお払い棒は通常のお払い棒の紙部分がビームで構成されている格闘装備。搭乗員が霊夢ならではの装備と言える。
『封魔陣』は機体の内装に障害を与えて短時間動きを止めてしまう。ただし博麗のエネルギー消費も大きいので多用は出来ない。
『夢想封印』は複数弾頭のホーミング光子魚雷で『博麗』の最強武器。ただし格納スペースの関係で三発しか搭載していない。

 特殊な増幅装置を搭載しており、霊力で機体を強化することができる。


霧雨魔理沙搭乗機

『霧雨』

搭載装備:ショットガン
     ミニミサイルマシンガン
     レーザーライフル
     ビームブルーム
     リフレクタービット
     近距離掃討エネルギーフィールド『スターダストレヴァリエ』
     陽電子砲『マスタースパーク』
     シールド

 魔理沙のイメージカラーである白黒でカラーリングを施された機体。
 森近霖之助が”こんなこともあろうかと”こっそり蒐集した物を改修していた。
 流星のマークが印されたシールドと、ウィッチハットを彷彿させる頭部形状、魔理沙好みの高機動が特徴。
 主兵装のショットガンは、博麗のスプレッドガンに比べて有効範囲と射程で劣る反面、密度が高いので威力に勝る。
 ミニミサイルマシンガンはマシンガン弾サイズまで縮小したミサイルを発射する。強力。
 レーザーライフルは高出力のレーザービームを発射する。一度撃つとエネルギーが空になるまで出っ放しになり、空になると再充電を行う。
 ビームブルームは穂先にビームフィールドを纏わせて使う格闘兵器。実はマスタースパークの砲身。
 リフレクタービットはゲーム中でレーザーを撃ってるアレ。単独でビームを撃つほどのエネルギーは無いが、レーザーライフルを反射するのに使える。
『スターダストレヴァリエ』は『霧雨』を中心に星型のエネルギーフィールドを散らす近距離掃討兵器。封魔陣と違い、物理的に目標を攻撃する。出力が大きい分エネルギー消費も大きい。
『マスタースパーク』は超強力な陽電子砲。ビームブルームと機体のジェネレーターを直結することにより使用可能になる。大抵のものなら容易く塵にしてしまう。ただし凄まじくエネルギーを消耗する上に砲身も消耗してしまうので撃てて二発が限度。一度撃つと再充電にかなりの時間が掛かる上、しばらくは機体の出力が70%近くまで落ちる。

 『博麗』と同様に特殊な増幅装置を搭載しており、魔力で機体を強化することができる。


ルーミア搭乗機

『宵闇』

搭載装備:サブマシンガン×2
     肩部レーザー砲×2

 頭部が金で、胴体が黒の二色で構成された機体。
 レミリア・スカーレットが神社方面から邪魔が来る運命を読んで、付近をふらふら飛んでいるルーミアに与えた。
 肩部のレーザー砲は可動式でほぼ真横から正面までをカバーできるが、頭部を支点とした扇状の範囲が死角になっている。


SS    >>
ENTRANCE
INDEX






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