そういえば夜に寝る吸血鬼はどうなのだろう、とレミリアは常々思っていた。
 最近は昼間に神社へ遊びに行く事が多い。日の光は日傘で遮れるし、優秀な従者がいる
ので不測の事態も問題なし。問題は生活リズムの違いだったが、それはすでに今、レミリ
アが夜、就寝の準備をしている時点で解決を示唆している。
 ただ、昼におきて夜に寝るという行為が吸血鬼の存在意義にどのような影響を与えるか
は定かではない。それこそ吸血鬼のレミリアですら知らぬ。

「まあ霊夢に会えるしいいかー」

 存在意義は全力で脇全開な巫女に全力で敗北した。
 それじゃあお休みー、と誰ともなく声をかけて布団に潜り、

「お姉さま遊ぼー!!」

 容赦なく叩き起こされた。というかドアをぶち破ってベッドが十五センチくらい浮き上
がる衝撃を発生させて入室するのは人間としてどうなのか。
 しかし妹は吸血鬼であった。
 宝石をあしらった羽をぱたぱた動かしつつ、フランドール・スカーレットはきらきらと
目を光らせている。その姿は子供みたいに愛らしいが、実質彼女の本質とか性格とか衝動
を色々知悉しているレミリアとしては闘争に飢えるウォーモンガーにしか見えない。
 彼女にとっての遊びとは生死の境をさまようような弾幕ごっこなのである。

「って、あれ? お姉さまもうおねむ?」

 シーツを被ってネグリジェを纏い、すっかりドリームダイブの体制に入っているレミリ
アである。その姿に、フランドールは首を傾げていた。普段であれば一番元気な時間帯の
はず。こと月の潮汐にその力を大きく左右される吸血鬼であれば、満月も近いこの夜、フ
ランドールのように活力旺盛であってしかるべき。寝ようと思っても眠れない。
 のだが、にべもなくレミリアはベッドへ潜った。
 枕をぎゅうと抱きしめて眠気をアピールしている。

「たまには健康的に寝たいのよ」
「えー、全力で遊びたいのにー。全力だと相手になるのってお姉さまや咲夜しかいないけ
ど、咲夜ももう寝てたしー」
「パチェは?」
「喘息で死んでた」
「じゃあ貴方も全力で寝なさい」
「えー? あの部屋に戻るのやーだー」
「じゃあ一緒に寝る?」
「全力で寝るー!」

 レミリアの譲歩は一秒で快諾された。とりあえずサイズはほとんど同じなので寝間着は
咲夜の手を煩わせずとも用意でき、フランは同じベッドへと滑り込むこととなった。

「えへへー」

 嬉しそうに笑う妹の顔をみながら、一緒に寝るのは何年ぶりだろうかとレミリアは思い
出そうとする。しかし、あまりに古いのか、それとも存在していなかったのか、霧にかか
ったようでおぼろげにしか思い出せない。
 そういえば、あまり姉らしいことはしていなかった気がする。少し、心が痛んだ。

「お姉さま、吸血鬼なのにあったかいねー」

 ただ、そっと抱きつかれる。かすかな吐息が、鎖骨やうなじをくすぐる。
 痛みは、あっさり消えてしまっていた。

 ―――まあ、これからよね。

「冷たい方が良かった?」

 冗談交じりの質問に首が振られる。
 その姿を見届けると、レミリアは自らの親愛なる妹を抱きしめて、緩やかに眠った。

 吸血鬼は夢を見るのだろうか。
 素敵な夢が見られますように。


 翌日、全力で寝坊した。
 巫女は全力でまったりできたようだった。














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