星がいちばん近くに見えた日だった。 晴れているのに月はなく、かわりに星が輝いている。 「魅魔さま、はやくー!!」 「はいはい、急がなくてもお星様は逃げやしないよ」 せわしなく走っていく魔理沙。 それを見ながら見ながら、しょうがないやつだなあと笑って魅魔が後に続いた。 向かう先は、近くにある小高い丘。 そこで、草を枕に星空を見上げる。月に一度のそれが、何よりも楽しかった。 憧れていたのだ。誰も知らない、あの無限の輝きがある場所に。 「ねえ、魅魔さま。お星様って何処にあるのかな」 みどりの匂い、夜の心地よさの中、魔理沙はそんなことを聞いた。 「うーん……遠い、とっても遠いところ、だね」 「魅魔さまだったら飛んでいける?」 「あー、そりゃちょっと無理だね。着く頃には成仏してるよ」 「そうなんだ……」 がっかりしたような声。会話が途切れ、静かになった。 少し気になったので魅魔は首を横に向けた。 すると魔理沙がいきなり立ち上がって、 「わたしが連れてってあげる!!」 「へ?」 驚きに目を丸くした魅魔を見つめると、目を輝かせていった。 「私がもっと魔法を勉強して、今よりも速く飛べるようになって、お空の星まで連れてっ てあげるの!!」 それはあまりにも途方もないことだった。それこそ太陽まで辿り着く方がまだ簡単なく らいだろう。 でも―― 「……そうだね。頑張ってみな。きっと飛んでいけるさ」 心底嬉しそうに、魅魔は笑った。 その目を、才能を、その心を信じることにしたのだ。 大丈夫、魔理沙ならきっと届くはずだからと―― か細い三日月を見上げながら、魔理沙は丘の上に立っていた。 自分の師の前で誓った日から数年。 呆れられるほどに学んで、技を盗んで、なおも努力し続けた成果を試すときが来た。 「天気晴朗、なれど雲多し……か」 風を見て、魔力の流れを視て、最適な状況が来たことを悟る。 「よし、いくぜ」 箒にまたがり、ゆっくりと上昇していく。緊張のせいか、箒を握る手が汗ばむ。 やがて加速が始まり、間をおかずに最大速度へ。 これは、まだ始まりに過ぎない。 これでもなお、星までは届かない。 ――けれど、これは憧れへの、夢への道を切り開く光となる!! 箒の先を月へ向け、魔理沙は自らの成果を解放した。 「『ブレイジングスター』………!!」 大地から、月へと駆け上る一筋の輝き。 幻想郷において、人の手で生まれた、初めての彗星だった。 |