幻想郷を覆いつつある謎の妖霧。
 その霧は夏の強烈な日差しから幻想郷を覆い隠し、中での弾幕ごっこを妨害する機能を持ち合わせていた。
 博麗神社の巫女さん、博麗霊夢は日光を遮る妖霧をどうにかすべく、事態の解決に出かけ、変な鉄の妖怪の妨害を受けてほうほうの体で逃げてきた。
 同じ頃、魔法使いの霧雨魔理沙は、霧の発生源と思しき湖の島へ様子を見に行き、霊夢と同じく変な鉄の妖怪の妨害に遭って引き上げてきた。
 鉄の妖怪への対抗手段を求めてやってきた古道具屋、香霖堂で二人は店主の森近霖之助から対抗手段の「鉄で出来た式みたいなもの」『博麗』、『霧雨』の二機を受け取り、再び事態の解決に乗り出した。
 神社の境内裏でルーミアの『宵闇』、湖の外周部上空でチルノの『氷雨』と二人は交戦、これを撃破。
 二人はさらに湖の島を目指し、湖の内周部上空で紅魔館門番部隊と交戦。紅美鈴の『華人小娘』と精鋭部隊『ゲートキーパーズ』に苦戦を強いられる二人だったが、辛くもこれを撃破。
 ところどころを損傷した機体を駆り、二人は霊夢の『カン』を頼りに針路をとった。

 以上、前回までのあらすじ。


 穏やかな湖面を蹴立てて二体の人型が飛んでいく。
 一体は左腕に陰陽エンブレムの塗装を施したシールド、右手にニードルマシンガンを携えてどことなくふわふわとした印象を与える機動の紅白。
 もう一体は左腕に流星エンブレムをつけた紅白と同様のシールド。右手にはレーザーライフルを装備し、ウィッチハットを彷彿させる頭部形状をした黒白。
 ――紅白こと博麗霊夢の操る『博麗』と黒白こと霧雨魔理沙が操る『霧雨』は妖霧の中心らしき場所へ向かっていた。

「そろそろかな」
 コックピット内で霊夢が呟く。『博麗』の推力を落として減速を掛け、その場に機体をホバリングさせた。
「お? どうした?」
 横を飛んでいた魔理沙も霊夢に倣って『霧雨』の推力を落とし、ホバリングさせた。振り返って『博麗』を見る。減速にタイムラグがあったのでその分前に出てしまっていたのだ。
 霊夢は『博麗』の左手で前方を指差した。指差す先には霧のベールに包まれた島影。そしてそこに佇む広大な紅いお屋敷。
「……アレか?」
「アレよ」
「ふん……」
 魔理沙は散々邪魔が入ったところから其処が臭いと睨んでいた。
 霊夢のカンは其処が元凶だと告げていた。
 二人はカメラアイの望遠機能を使って遠距離から紅いお屋敷の見分を始めた。

 その屋敷は堅牢に防御を固めていた。
 外壁の外に塹壕を掘り、土嚢を積み上げて急造の防御陣地を築き、ヘヴィーマシンガンやガトリングガンの銃座を設置。
 青と白のメイドカラーで彩られた人型機、『サーヴァント』の他にさらに両肩にキャノン砲を備えたマイナーチェンジ、『サーヴァント砲戦仕様』も多数配置するなど、「ここが霧の発生源ですよー」とばかりに迎撃部隊を展開していた。
『こそこそせずに降りかかる障害は堂々と力で跳ね返す』とでも言わんばかりである。館の主の主義なのだろうか。

「たった二人を歓迎するには随分大掛かりね」
 ざっと眺めて霊夢が感想をもらした。
「それだけ私たちがビッグゲストってことだな」
 操縦レバーを指で撫でながら魔理沙は言った。
 目標の堅牢さはちょっとした要塞に匹敵する。妖霧の展開を阻もうとする者が、万が一門番隊を抜けてきた場合に屋敷外で阻止するための保険として用意されていたのだ。
 ――そして、今、その万が一が起きている。
「で、どうしようか?」
 霊夢が問う。
「私の性分に合わないがここはやっぱり……」
「正面突破ね」
 魔理沙の言わんとするところを察して霊夢が答えた。セルフアンサー。
「途中で挟み撃ちに遭っても困るしな。私の性分には合わないが」
 不敵な笑みをその顔に浮かべて魔理沙が言う。
「どの口が言うんだか」
 やれやれと霊夢は肩を竦めた。
「行くわよ」
「応」
 二人の操作に従って『博麗』と『霧雨』の二機は屋敷要塞『紅魔館』へ向かって滑るように移動を開始した。


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 門番隊壊滅の報せを受けて、長距離索敵担当の彼女は少しピリついていた。
 乗機の『サーヴァント長距離偵察索敵仕様』の性能をフルに発揮して、侵入者を即時感知しなければならないのだ。
 感知が遅れれば対応が遅れる。対応が遅れれば防衛網を突破される。突破されるとメイド長に怒られる。
 メイド長に怒られると色々な査定に響く。食事のメニューとか。お小遣いとか。
 それだけに留まらず、肉体的な折檻を受けるかもしれない。げんこつとか。うめぼし、とか。おしりたたきとか。
 身体のバネを最大限活用したスイングによる飛び上がるほど痛いおしりたたき。
 年季の入った木製の布団叩きで乙女の臀部を引っ叩くのはいかがなものかと思うのだが、落ち度があるのは自分なんだから仕方が無い。
 ダメ元で減刑を嘆願しようかと思ったこともある。あるのだが……。
 減刑を嘆願した先達のメイドが『キャットオブナインテイル』で一時間ばかり叩き続けられたという逸話を残しているので恐ろしくてできやしない。
「妖怪なんだからこのぐらいしなきゃ堪えないでしょ」とはお仕置き後のメイド長のコメントらしい。
 妖怪だって痛いものは痛い。布団叩きでも飛び上がるぐらい痛いんだから、『キャットオブナインテイル』なんかで打たれたら多分のた打ち回る。
 被虐願望のある筋金入りならいいだろうけど、ノーマルな自分は全くもってよろしくない。
 そもそもメイド長はちょっとばかりサドっ気が強すぎるんじゃないだろうか。お嬢様もサドっ気強いけど、輪をかけてメイド長の方が強いと思う。
 そのうち失敗一つにつき爪一枚とか言い出すんじゃないだろうか。ああ、こわやこわや。
 思考が逸れすぎたことに気付き、彼女は慌てて索敵に意識を集中した。
 通常の『サーヴァント』より大型化されたホワイトブリム型センサーと、高性能化されたカメラアイで自身に割り当てられた範囲を警戒する。
 首を巡らせて索敵を行っていると、視界の端に動く物が見えた。カメラを望遠に切り替え、さらにセンサーの索敵範囲を狭めて感知密度を上げる。
 ――コンソールがアラート音を鳴らした。
『識別信号の無い未確認機体を二機捕捉』と。
 彼女は慌しくコンソールを叩いて隊長機への回線を開いた。
「ろ、六時方向に未確認機二機捕捉! 距離6000から低空で接近中!」
 隊長機と通信をしながら『メイド長に怒られるような事態になりませんように』と彼女は心底祈った。


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


「全機迎撃体制! 各銃座弾幕展開用意! 砲撃員は捕捉し次第ぶっ放せ!!」
 紅魔館防衛部隊庭先分隊(元園芸担当)の分隊長が大雑把に指示を飛ばす。かなり大雑把だが仕方が無い。庭木剪定の指示と機体に乗ってドンパチの指揮をするのでは勝手が違いすぎる。拙い指示に従って庭先分隊のメイド達が慌しく迎撃体制をとり始めた。アサルトライフルやバズーカを手にガッチャガッチャと『サーヴァント』たちが走る。鉈、チェーンソー、高枝切り鋏に箒に塵取を手に、頭にねじり鉢巻をして急行する『サーヴァント』の姿もあった。芝刈り機を持ち出して走るメイドの姿もあった。何をする気だ。
 装備に関わらず、『サーヴァント』達は外壁の外に掘った塹壕に機体を潜り込ませた。そして各々の装備を向かってくる敵機へ構える。アサルトライフルとバズーカはともかく、そこの『サーヴァント庭師仕様』、鉈を振りかざしてどうする気だ。
「敵機ッ、距離4500まで接近! 砲撃射程に捕捉!」
 ターゲットを照準内に捉えて『サーヴァント砲戦仕様』が報告する。
 間髪入れず分隊長機が号令と共に手を振り下ろした。
「砲撃班、撃ちー方始めっ!! 撃て撃て撃て!」
 指示に従って『サーヴァント砲戦仕様』の肩部キャノン砲が戦端を開いた。
 隊伍を組んで敷かれた砲列が一斉に火を噴く。
 砲弾が『博麗』と『霧雨』に向かって飛翔し、盛大な水柱を上げた。
「クソッ! 外れた!」
「モタモタするな! アウトレンジのうちに撃ちまくれ!」
 排莢、再装填。再び発砲。
 二発ワンセットの砲弾が二機を落とせといくつも飛翔し、目的を果たせずに水柱の数々を上げる。
 戦闘機動で動き回る『博麗』と『霧雨』を遠距離からの砲弾は捉えられない。
 狙い撃っても砲弾が到達するまでに二機はそこからいなくなってしまう。先読みで撃っても、ランダムに機動する二機に当てられるかはどうかは運だ。
 それでも砲撃班はこれでもかと砲弾を撃ちまくった。まぐれ当たりが出る可能性はゼロではない。
 ――ゼロではないが。

「そうそう当たるものではないっ、てな。で、五月蝿い奴は黙らせるに限るぜ」
『霧雨』が無造作にレーザーライフルを撃った。
 高出力レーザーが空を焼いて砲撃の元を強襲。土嚢が吹っ飛び、守るはずだった砲撃機もろともに役目をなさなくなる。

「敵機距離3000まで接近!」
「全機弾幕展開! 撃ちまくれ! 以降は各自の判断で行動しろ!」
 分隊長からの指示が飛び、塹壕に頭を伏せていた『サーヴァント』達がにわかに動き出した。
 銃座に据えられた重火器、『サーヴァント』の手にした銃器が唸りをあげて鉄火を雨の如く撃ち出していく。ばらばらと薬莢が飛び散り、硝煙が立ち昇り、五発に一発の割合で混ぜられた曳光弾が光を纏って妖霧を裂く。
「大歓迎だな」
「弾幕でお出迎えっていうのは感心しないわね」
「じゃ、こっちも弾幕を手土産にするとするかい?」
「いいわねそれ。魔理沙は右と左どっちがいい?」
「お箸を持つ方の手だな」
「左だったかしら」
「私は右利きだぜ」
「それじゃ右をよろしくね」
「ああ。左を頼むぜ」
 軽口を叩き、二機は前方から雨霰と撃ち上げられる花火の中へ突っ込む。軽く手を振ってそれぞれが引き受けた戦域へと向かった。


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 魔理沙操る『霧雨』が向かう先には『サーヴァント砲戦仕様』を主軸とした支援攻撃隊が待ち構えていた。
 先のレーザー攻撃で一部土嚢が吹き飛んでいたが塹壕は依然健在。正面に対しての守りは未だに堅固である。
「弾種『三式』装填! 焼夷榴散弾ブチカマしてやれ!」
 頭部と各々の武装だけ出し、『霧雨』を近づけさせじと『サーヴァント』は火線を展開。キャノン砲、アサルトライフル、ヘヴィーマシンガンにサブマシンガン、大小さまざまな銃器が、同じく大小さまざまな弾丸を湖上にばら撒いていく。
『霧雨』は『博麗』に合わせていた機体速度を一気に引き上げた。スラスター出力全開。グンと加速した黒い機体が瞬く間に防御陣地へ肉薄する。
 鳴り響くロックオンアラートも弾丸の波もお構いなしだ。
「弾丸の波に乗ってやるぜ」
 くるくると迎撃火線と戯れながら、魔理沙は『霧雨』を操作、ミニミサイルマシンガンを抜いてフルオートでばら撒いた。
 牽制射かと思いきや頭部に直撃を喰う機体が一機二機三機……!
 たまらず何機かの『サーヴァント』達が塹壕内へ伏せる。『霧雨』は弾幕が薄くなった隙に接近し、防御陣地の手前で急上昇。ヴェイパートレイルで螺旋を描きながら、空高く舞い上がり――。
「上から行くぜ、気をつけな!」
 急降下。塹壕に入った『サーヴァント』達をロックオン。三点バーストで次々にミニミサイルの鉄槌を撃ち下ろしていく。塹壕という狭い防御陣地に入ったことが災いして、『サーヴァント』達は回避機動が取れない。やられたくなければ火線を張って『霧雨』を撃ち落すしかない。懸命に撃ち返す『サーヴァント』達だったが、『霧雨』の空戦機動の前に掠りもしない。『サーヴァント砲戦仕様』が『三式』焼夷榴散弾を撃つが、信管の炸裂調整が合わず、『霧雨』と擦れ違ってから炸裂する始末。頭部や上半身にミニミサイルを喰らい、『サーヴァント』は次々に撃破されていく。
「クソッ! 機体損傷! 機体損傷!」
「Die,You SOB!(くたばれ!)」
「ちくしょう! 何で当たらないんだッ!」
 怒声に罵声、そして悲鳴。それらを一緒くたにした声が上がる。上がるそばからミニミサイルが命中し、機体が大破していく。
 空高く舞い上がった『霧雨』が塹壕の淵に着地する頃には、火線は一つも上がらなくなっていた。
「ま、腕と機体の差だろうな」
 トントンと『霧雨』はマシンガンで右肩を叩く。辺りには累々と横たわる『サーヴァント』の無残なスクラップ姿があった。
「こんなもんか? もう壊すものないよな?」
 キョロキョロと左右を見回す魔理沙。――視界の端、塹壕の中で何か動いたような気がした。
「ぁん?」
 そこは塹壕の曲がり角で『霧雨』の視界からは丁度死角になっている。魔理沙は舌打ちして『霧雨』を歩かせた。『霧雨』はマシンガンを構え、ゆっくりとした足取りで不審個所へ近寄っていく。鬼が出るか蛇が出るか。塹壕の中の死角が確認できるところまで後数歩というところで、コンソールがアラートを鳴らした。『背後よりロックオンされている』と。
「っ!」
 シールドで上半身を庇いながら『霧雨』は背後を振り返り、マシンガンを向けた。
 焼夷榴散弾がシールドに着弾、炸裂。
「く、んなろっ!」
 衝撃に揺さぶられながらも魔理沙は『霧雨』を操作。ターゲットインサイト、トリガー。フルオート掃射のミニミサイルが下手人の『サーヴァント砲戦仕様』を半壊から全壊状態へご案内。
 トリガーオフして息つく間もなく再び背後からロックオンアラート。
「だあくそ!」
 振り返りざまに構えたシールドに大鉈が叩きつけられた。『サーヴァント庭師仕様』だ。頭部に巻いたねじり鉢巻がいなせである。
 がっしと左手で『霧雨』のシールドを掴み、『サーヴァント庭師仕様』は大鉈を振り被った。ぎらりと無骨な凶器が光る。首を刎ねるつもりだ。
『霧雨』はそれより早くマシンガンの銃口で『サーヴァント庭師仕様』の頭部を突いた。
 マズルフラッシュ。
『サーヴァント庭師仕様』の頭部が弾けた。されど右腕の稼動は健在。再びマズルフラッシュ。今度は右腕が半ばから千切れ飛ぶ。頭部と右腕にミニミサイルを喰って傾ぐ敵機を『霧雨』はシールドから振り払った。
「おどかしやがって」
 毒づいてトリガー。三発のミニミサイルが頭と右腕を失った『サーヴァント庭師仕様』に命中。不器用なステップを刻み、歪み穿たれた装甲から煙を燻らせて『サーヴァント庭師仕様』はぶっ倒れた。
「……こいつでラストか、『霧雨』?」
 魔理沙の問いにコンソールが回答を表示する。
『敵性反応なし。敵防衛部隊全滅』
「よし。霊夢の方行くか」
『霧雨』は地を蹴って壊滅した防御陣地を後にした。


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 霊夢は面倒が嫌いだ。もっとも、世の中には面倒が好きな人はいない。
 好きな“面倒”は面倒ではなく“手間”であり、嫌いな“手間”が“面倒”となる。つまり面倒好きなど存在しないということになる。
 ――まあそんな些末なことはどうでもいいのであった。

 正面に捉えた防衛陣地から吹き荒ぶ鉄風雷火の中を『博麗』が往く。カンに従って霊夢は機体を操り、攻撃を避けつつにニードルマシンガンを応射する。さらにホーミングミサイルを同時に六発発射。ホーミングミサイルは敵機を狙って高速で飛び、間に存在する土嚢と地面に突き刺さった。信管作動、炸裂。小爆発が地面を耕した。ミサイル、目標に命中せず。
 土煙の中からめくら打ちで無数の弾丸が返ってくる。弾幕濃度に変化無し。舌打ちして霊夢は回避機動で凌ぐ。
「面倒臭いわね」
 ニードルマシンガンとホーミングミサイルでは土嚢と塹壕に守られた『サーヴァント』にダメージを与えられない。牽制射撃で頭を上げさせないのが精々だ。
 土嚢と塹壕の守りがない上空から叩くか、あるいは――。
「『博麗』、連中を一掃できる装備はない?」
 霊夢の問いに『博麗』がバックパックの兵装を示した。ホーミングミサイルではない。
「光子魚雷『夢想封印』?」
 霊夢の怪訝の声に『博麗』が答えた。コンソールに『夢想封印』を使った場合の過程と結果をシミュレートして簡略に表示する。
『敵機体殲滅率100%』
 眉唾モノの数字である。だが霊夢は躊躇しなかった。
「『博麗』、『夢想封印』」
 霊夢のコマンドワードを認識し、『博麗』はバックパックを開く。そこからホーミングミサイルよりも大きい飛翔体が撃ち出された。
 飛翔体は上昇し、『博麗』の頭上を高く追い越して敵防御陣地上空へ飛んでいく。土煙の影響もあって『サーヴァント』達は飛翔体に気付かない。霊夢も霊夢で自身を囮として『サーヴァント』達に振舞った。応射される曳光弾、炸裂する砲弾の破片が『博麗』を掠める。
 霊夢は攻撃をひらりひらりと避けながら『博麗』のコンソールを見た。『夢想封印』命中までの残り時間が表示され、減っていく。
「あと五秒、四、三、二、一、今」
 防御陣地上空に到達した飛翔体がその外殻を爆砕した。内包していた多数の弾体が光弾となって、一斉に直下の『サーヴァント』達を狙って降り注ぐ。
 突然鳴り響いたアラートに空を見上げた『サーヴァント』達に『夢想封印』は容赦なく襲い掛かった。命中炸裂爆発命中炸裂爆発命中炸裂爆発。
 一拍置いて『博麗』のコンソールが前方の敵性反応の全滅を表示。霊夢は壊滅した防御陣地をモニター越しに確認して思わず呟いた。
「……すごい」
 他の搭載装備を遥かに凌ぐ威力。それを目の当たりにすれば口から言葉が零れても不思議はあるまい。
 そこへ機体の提供者である森近霖之助から通信が入った。
「霊夢、『夢想封印』を使ったな?」
「ああ、霖之助さん。使ったわよ」
 淡々とした確認の声に霊夢は肯定の声で返した。
「さっきも言ったが『夢想封印』は三発しか搭載していない。残りは二発だ。無駄遣いすると後で困るかもしれないぞ」
「はいはい。気をつけるわ」
 霖之助の忠告に、さっと応答して霊夢は通信を終了。『博麗』を操作して『霧雨』と合流するべく針路を取った。


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 霖之助は『博麗』と『霧雨』をモニターしていたコンソールパネルからゆっくりと顔を上げて天井を仰いだ。
 眼鏡を外して目頭を揉み、それから両手で目の周りを軽くマッサージして緊張を解す。目が疲れているからといって眼球を直接圧迫してはいけない。いいことはない。
 霖之助はゆっくりと時間をかけてマッサージを行い、凝りを解した。
 目を何度か瞬いて、傍らの目薬に手を伸ばした。冷たい薬液が霖之助の眼球を潤し、癒す。薬を染み込ませるように目蓋を閉じて霖之助は目を休ませた。
 たっぷり一分の休息を取って霖之助は眼鏡を掛け、再びコンソールを見た。
 ――表示は変わっていない。

『『博麗』『霧雨』失探。交信不能』

 やれやれと霖之助は椅子の背もたれによりかかった。こうなってしまっては自分にできることはない。
 直前の状況から見るに、撃墜されたわけでもなさそうだった。
 心配は要らないだろう。霖之助はそう考えを纏めると傍らの本に手を伸ばした。
「――まるで不可知戦域だな」
 栞を挟んだページを開いて霖之助は呟いた。


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 屋敷の塀を飛び越えたらそこは図書館だった。

 防御陣地を壊滅させた二人は本丸の館を攻めるべく屋敷の塀を飛び越え、何の違和感を感じることもなく何処かへ瞬間移動していた。
 異常事態に霊夢と魔理沙は周囲を見回す。
「……ぱんだ、ここあ?」
「『なんだ、ここは?』でしょ」
 霊夢の突っ込みに、洒落が通じないぜ、と魔理沙は言った。逃避か、それとも余裕綽々なのか。
 薄暗い屋内空間が驚くほどの広さで広がっていた。かなり高くに天井が視え、四方には壁が認められず、眼下に広がる床には紅い絨毯を敷き詰められているのが確認できた。床からは規則性を持って巨大な直方体が林立している。
「……壁が見えないわね」
「どんだけ広いんだよ」
 ゆるやかに高度を落として『博麗』と『霧雨』は直方体のそばへ寄った。直方体は無数の本を収めた本棚だった。魔理沙が目の色を変える。
「わぁ、本がいっぱいだぁ」
 魔理沙の意思を反映して、『霧雨』はふらふらと本棚へ近寄る。その様を見てやれやれとばかりに霊夢は肩を竦める。
 ここは巨大な図書館だった。機体に乗っている二人には分からないが、機外には紙とインクとカビの入り混じった図書館特有の(本好きにとっては香しい)においが漂い、それを裏付けている。
 魔理沙の意思に従って『霧雨』は本棚に取り付き、収められた本の背へ目を走らせた。色とりどりの書籍が綺麗に整頓して収められている。ざっと見ただけでも希少価値のありそうなものが結構な冊数見て取れた。
「おおぉぉ……選り取りみどりだぜ」
 宝物を前にした子供のように魔理沙は目を輝かせ、『霧雨』から降りて貴重なものから順にちょいと失敬しようとする。
 魔理沙がコクピットハッチを開けようとしたところで、唐突にロックオンアラートが鳴り響いた。
「ロックオン!? どこからだ!」
 魔理沙はハッとしてシートについて周辺を索敵。敵機確認できず。『博麗』を顧みると、向こうもロックオンされているようで周囲を警戒していた。『博麗』の左手が『霧雨』を招いている。『霧雨』は本棚から離れて『博麗』の方へ。打ち合わせもなく『博麗』と『霧雨』は背中合わせになって身構えた。
「『博麗』、敵はどこ?」
「『霧雨』、敵はどこだ!」
 二人の問い掛けに各々の乗機はモニター上にロックオン感知方向を表示して答えた。前後左右、四方からロックオンされている。
「敵なんかいないわよ!」
「なんだ、一体どうなってるんだ!?」
 ロックオンアラートが喧しく鳴り続ける。だが敵機の姿は見えない。焦燥感が募る。
 二機の装甲は並の攻撃にはびくともしない。この状況で並の攻撃が来るとは考えにくい。
「やばいぜやばいぜやばくて焦るぜ」
「本当。どうしよっか」
 首をめぐらせて周囲を探る。敵機確認できず。そうこうしているうちにロックオンアラートが攻撃アラートに変わった。
 二機を取り囲むようぐるりとエネルギー弾の弾幕が展開される。
「嘘っ!?」
「なんの前触れもなしにかよ!」
 迫る弾幕。二人は障害物のある本棚の林か、広大な上空かの二択を迫られ、上空へ逃れた。
 真下でエネルギー弾がぶつかり合い、炸裂する。あの中で揉みくちゃにされればこの二機とて危うかっただろう。
「あっぶねえ……」
「まだ終わりじゃないみたいよ」
 ロックオンアラートが鳴り止まない。――攻撃アラート!
 上方、天井よりエネルギー弾多数。
「こなくそ!」
 二機は進行方向を上方から正面へ変更。降り注ぐエネルギー弾雨から逃れるように機動。スラスター全開、急加速。Gで身体が押し付けられる。圧迫感で息が詰まる。その甲斐はあった。被弾なく弾雨より脱出。
「っ……は。なんなんだ、一体」
「わかんないけど厄介なのは確かね」
 魔理沙は『霧雨』をロールさせて上方を、天井付近を見た。弾雨の上に一冊の本を視認。否、本ではない。本は『サーヴァント』並に大きくないし、あんなに鉄っぽくない。
「アレか!」
 明らかに怪しい本モドキに『霧雨』はミニミサイルマシンガンを向けた。フルオートで掃射する。二十発近いミニミサイルを喰らい、本モドキが爆散する。同時にエネルギー弾雨が止んだ。怪しい本モドキがこの攻撃の仕掛け人だったらしい。
「お見事」
「感情の篭ってない声だぜ」
「そうは言うけどね、魔理沙」
「んん?」
「あと四ついるわよ」
 初撃の前後左右は別の本モドキだったらしい。『博麗』の示す先には正方形で編隊を組む四つの本モドキの姿があった。
「来る」
 霊夢が言うと同時に、『博麗』と『霧雨』を狙って正面からエネルギー弾の弾幕が放たれた。二機は左右に散開して弾幕から逃れ、それぞれ本モドキを照準する。発砲、ミニミサイルとホーミングミサイル、ニードルが次々に本モドキを撃ち砕く。身を歪ませ、煙を噴いて本モドキが落ちていく。
「姿を現したのはまずかったな。見えてしまえば怖くない」
 へへんとばかりに魔理沙が言った。
「見えるんならいくらでも当てられるしね」
 霊夢が相槌を打つ。
 二人の纏う空気がどことなくリラックスしたものに変わる。連続する奇妙な事態に掻き回されていた心が落ち着きを取り戻す。
 二機はくんと切り返して再びツーマンセル態勢へ。互いをフォローできる編成で空を飛ぶ。
 再三ロックオンアラートが鳴る。

『敵機多数接近』

 図書館の奥からふわふわと(だが速い)見覚えのある形状のものが編隊を組んで飛んできた。
 機体と交戦できるサイズの毛玉だ。
 続いて『サーヴァント(図書館仕様)』が武器を手に隊列を組んで、侵入者を殲滅せんと迫る。
「おいでなすったな」
「魔理沙。蹴散らしながら奥へ進むわよ」
「ああ。ちゃきちゃきいくぜ」
 機体の推力を引き上げ、紅白と黒白の二機は図書館の布陣に突撃した。


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 窓一つなく、天井から吊るされたシェード付きのランプだけが光をもたらす薄暗い部屋。部屋の其処此処に書物をいっぱいに詰め込んだ本棚が設置され、それでも足りぬとばかりに床の其処此処に書物が山と積まれ、部屋全体に古書の空気を漂わせている。本棚以外にも書斎机やキャビネットなど、見るからに高級そうな家具がそこかしこに配置され、この部屋は高貴な書斎なのだという事を表していた。
 ゆったりとした皮製の椅子に腰掛けて書斎机に向かう少女の影があった。ぺらりばらりと時折ページを捲る音がする。
 ノックも無く唐突に書斎の扉が開かれた。
「パチュリー様! 賊が図書館に侵入してきました! って暗いですよこの部屋っ!」
 頭に背中の中程まである赤い髪と左右一対の小さな悪魔の羽を生やし、背中にも一対の大きな悪魔の羽を生やした司書――『小悪魔』が慌しく書斎へやってきた。
「……落ち着きなさい。大きな声を出さなくても聞こえるわ」
 紫色の髪に白いモブキャップとネグリジェ姿、そして眠そうな目をした少女――『パチュリー・ノーレッジ』は手にした分厚く大きな本からは目を離さずに小悪魔を嗜めた。
 小悪魔は「失礼します」と言って大股で書斎机に歩み寄って机上のランプを点けた。色白なパチュリーの手元がたちまち明るく照らされる。
「コホン」と咳払いを一つして小悪魔は報告を開始した。
「賊は二体。現在毛玉型攻撃機と『サーヴァント』が交戦中ですが、押されています」
「『門番隊』を落としてくるような敵が相手じゃ仕方ないわね」素っ気無いパチュリーの答え。
 いかがいたしましょうか、と司書は伺う。
 ぺらりとページを捲る音。相変わらず、パチュリーは目を本に向けっぱなしだ。
「『大図書館』の準備は?」
「手配はしました。急がせてますけど、まだしばらく時間がかかります」
「ふぅん……しばらく、ね。……えぇーと、発進までにかかる時間を捻出する方法は……」
 パラパラパラとパチュリーはページを繰る。
「載ってるんですか……?」
「あった。小悪魔、全力出撃」載っているようである。
「やってます。私も報告が済み次第出ます」
「あそう」
 カッ、と編み上げ靴の踵を合わせ小悪魔は敬礼。
「『リトルデビル隊』、これより出撃します!」
「ん。いってらっしゃい」
 相変わらず本から目を離さずにパチュリーは言った。
「いってきます」
「『大図書館』の準備が済んだら私も出るわ。それまでは持ちこたえて見せなさい」
「了解です」
 小悪魔はパチュリーに背を向け、図書館内格納庫へ足を向けた。

 格納庫もまた戦場だった。整備担当のメイド達が慌しく動き回って毛玉攻撃機や『サーヴァント』の戦闘準備を整えている。準備の完了した機体から発進して敵機の迎撃へ。そしてメイド達はまた別の機体の準備に掛かる。損傷して戻ってくる機体があれば応急修理と補給を行って再び送り出す。さながら戦闘の無い戦場だった。
 小悪魔は咥えタバコの整備メイドに労いの言葉を掛けて、戦闘準備の完了した愛機に乗り込み、起動させた。
 全周囲モニターが外部の様子を映し出し、コンソールパネルが機体が万全の状態であることを知らせる。
「こぁ姉おそーい」
「さっきから増援要請がうるさいぐらいに来てるこぁ」
 システムが起動するなり飛び込んでくる僚機からの通信。小悪魔は機体を動かすのに必要な措置を取りつつ相槌を打つ。
「待たせちゃったみたいですね」
「待たされまくりー」
「こぁー」
 後輩であり、妹分であり、僚機である二人の“小悪魔”の返事を聞いてくす、と小悪魔は笑った。笑ってる場合じゃないんですけどね、と心中で思いつつ機体を発進口へ移動させる。発進口までの道中で小悪魔の乗機と同タイプの機体が二機、合流する。肩部装甲に描かれた01、02、03のナンバー順に並んで移動。
「ではお待たせしちゃった分、奮戦と行きましょうか」
「オッケー。さくっと落として搭乗者引きずり出してお愉しみにしよう。くっくっくっ……」
「あい、がんばるこぁー」
 全機、発進口へ到着。背部可変翼を展開。スラスター出力を全開へ。
「『リトルデビル隊』、出撃」
 三つの黒い機体が戦場へ飛ぶ。


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 3WAY機銃の間に霊夢は『博麗』を割り込ませ、ビームお払い棒を振り下ろした。
 しゅぱあ、とビームの紙垂が紙でも切るかのように毛玉を裂く。
 魔理沙はガトリングキャノンで毛玉を援護する『サーヴァント』の内懐に『霧雨』を突っ込ませた。
 ガトリングキャノンを蹴り飛ばしてショットガンを突きつけ、発砲。
 量産機ゆえにローコストな材質で作られた装甲を散弾が撃ち砕いた。機能を停止して崩れ落ちる『サーヴァント』。

『博麗』と『霧雨』、たった二機を相手にヴワル魔法図書館防衛隊は劣勢を強いられていた。

「増援はまだか。このままじゃ叩き潰されるぞ」
 乗機の『サーヴァント』に軽機関銃で弾幕を張らせつつメイドの一人が言う。弾帯一つを撃ち終え、バックパックから次の弾帯を引き抜いて再装填、射撃再開。熱を帯びた高速弾が図書館の黴臭い空気を焼き裂いて鉄火の幕を成す。軽機関銃の機関部からザラザラと音を立てて空薬莢が床へ散らばる。『霧雨』を狙った高速弾は本棚に張られた防御結界に当たって火花を散らす。
 回避機動を取りながら『霧雨』はショットガンで反撃。『サーヴァント』は手近な本棚を遮蔽物にして散弾を回避。軽機関銃の再装填の時間を惜しんでサイドアームの機関拳銃で反撃する。『霧雨』はシールドで防御しながらポンプアクション。銃撃が途絶えた瞬間に発砲。散弾が『サーヴァント』の頭部と左腕を吹き飛ばした。もんどりうって倒れる『サーヴァント』にもう一発散弾を撃ち込んでとどめを刺し、『霧雨』は宙へ飛ぶ。
「ヴワル魔法図書館防衛隊は既に戦力の40%を損失!」
 スプレッドガンとニードルマシンガンを振り回し、さらにホーミングミサイルをばら撒いて『博麗』が薄暗い図書館を舞う。二丁の長物に狙われた機体は煙を吐いて落ち、ホーミングミサイルが撃たれればその数と同数の機体が戦列を離脱する。急襲して単分子ブレードの一撃を狙った『サーヴァント』はひらりとかわされ、足癖の悪い一撃で間合いを開けられニードルでズタズタにされた。
 一対多数の状況で一歩も引かない。霊夢操る『博麗』は『鬼神』と見紛うばかりの強さを見せつけていた。
「くそ! 差があり過ぎる! 手に負えん!」
 誰かが悲鳴を上げる。また一機、撃墜された。
「増援はまだか!?」
 上空から支援攻撃を行っていた毛玉編隊がレーザーライフルでまとめて薙ぎ落とされる。それに気を取られた『サーヴァント』が懐に潜り込んだ『博麗』にビームお払い棒で破壊された。
 ヴワル魔法図書館防衛戦、趨勢は決まりつつあるように見えた。
 ――ほんの少し前までは。

「リトルデビル1より各機へ。――苦無を放て」

 唐突に入る通信音声。そして『博麗』、『霧雨』を狙って、遠距離から一斉に三発の砲弾が撃ち込まれた。砲弾は二機より少し前で炸裂、内包した無数の苦無を散弾のようにばら撒いた。
 シールドで苦無散弾を防御して二機は距離を取る。弾着煙の晴れた視界の先には――。
「こちら『リトルデビル隊』。応援に来ました。各隊、まだ生きてますか?」
 黒い塗装を施し、背部と頭部にそれぞれ大小一対の悪魔のような羽を備えた機体――『小悪魔改』が三機。それぞれ手にはバズーカを携えていた。右肩部の装甲にはそれぞれ前から順番に『01』、『02』、『03』と白く描かれている。各機、頭部形状、装備などに微妙な差異があった。
「リトルデビル隊――? 通称『こぁい三連星』か!」
 防衛隊の誰かが言う。
 それら三機だけではない。
「『こぁい三連星』だけじゃない。『エイボン隊』、『ルルイエ隊』、『ナコト隊』もいるぞ」
 それぞれ装備とカラーリングが異なる、八機一組編成の部隊が三つ、『リトルデビル隊』に続いている。
「パチュリー様の『大図書館』が来るまでの辛抱です。ここで死守してください!」
 漸く表れた増援。
『知識と日陰の少女――パチュリー・ノーレッジ』が愛機の投入宣言。
 それを迎えるための死守命令。
 残存防衛隊の歓喜と怒りの混じった声がそこかしこで上がる。
「こちらペーパーバッグ11。増援! 来るのが遅いよ!」
「こちらブックレット2。待ち侘びたわ!」
「こちらパルプマガジン13。よっしゃあ! ここから巻き返すぞ!」
 防衛隊が息を吹き返した。意気も盛んに携えた武器で『博麗』、『霧雨』を撃つ。
 回避機動で別れた『博麗』と『霧雨』をさらに分かつように、『エイボン隊』の抱えてきた高出力レーザーガンポッドが照射された。発射から着弾までのタイムラグが殆ど存在せず、弾間もないレーザー攻撃。八本のレーザーに追い立てられ、『霧雨』は高度を落として低空に逃れた。
 そこに待ち受ける『ルルイエ隊』、『ナコト隊』、防衛隊。
『ルルイエ隊』の苦無ガンポッドと『ナコト隊』の機関砲、防衛隊の収束攻撃が『霧雨』を襲う。
「だああああああ!!」
 魔理沙はシールドで防御、回避動作をしながらひたすらに撃ち返す。避けきれず、シールドで防ぎ切れなかった攻撃が装甲を叩く。
「っく! 『スターダストレヴァリエ』は!?」
 コンソールが問いに答える。無情な表示。『ボムの射程外』
 毒づいて魔理沙は遮蔽物の本棚へ『霧雨』を飛び込ませた。『スターダストレヴァリエ』の射程に捉えるには接近しなければならない。
 だが、接近すればそれだけ弾幕密度が増し、回避は困難になり必然的にダメージは増す。
 ショットガンからミニミサイルマシンガンに持ち替えさせて魔理沙は『博麗』の姿を探した。

『霧雨』から分断された上空で『博麗』は『こぁい三連星』と踊っていた。


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 有効射程がほどほどにあり、有効範囲もほどほどに広い苦無散弾を装填したバズーカの相手は『博麗』でも厄介だった。
 それが三つ。時に三方向から同時に。時に時間差をつけて追い込むように。巧みに連携を取って『博麗』を躍らせる『リトルデビル隊』。
 霊夢はスプレッドガンとニードルマシンガンの二丁で前方左右に展開する『小悪魔改01』と『小悪魔改02』へ反撃。さらにホーミングミサイルを発射して後方の『小悪魔改03』を牽制する。
「リトルデビル2!」
「ウィルコ!」
 阿吽の呼吸で『小悪魔改02』はECM(電子妨害手段)を作動させる。ジャミングを掛けられたホーミングミサイルが明後日の方向に飛んで行く。
「うそっ!?」
 ホーミングミサイルが無力化されたことにより『小悪魔改03』はノーマーク。霊夢の背筋を悪寒が駆け抜ける。
「こぉ、あっ!」
 未知の大衝撃が『博麗』を背後から襲った。吹っ飛び、正面の本棚に激突する『博麗』。
「く……!」
 追い撃ちを受ける前に『博麗』は本棚を蹴って頭から降下する。降下しながら『小悪魔改03』を捕捉し、自分が何で攻撃されたのかを霊夢は確認した。
『小悪魔改03』の右手には他の機体と同様のバズーカ。左手には――。
「何よ、あれ……」
 見るからに凶悪なトゲ付き鉄球に鎖をつけた質量兵器、『ハンマー』が携えられていた。さっき『博麗』を攻撃したのはコイツらしい。
 お返しとばかりにスプレッドガンとニードルマシンガンで攻撃する『博麗』。『小悪魔改03』は降下する『博麗』とは逆に上昇することによって回避。
 霊夢が舌打ちする間もなく、他の二機から砲撃。『博麗』は床スレスレの低空で回避機動。『小悪魔改01』、『小悪魔改02』からの散弾苦無を避け――切れない。咄嗟にシールドで防御したが一部が派手に装甲を叩いた。
「この!」
 苦無にニードルで応射。だが『小悪魔改』はすばしっこい。宙を滑るようにニードルをかわす。
『小悪魔改01』と『小悪魔改02』は左手で背部にマウントしたビームライフルを抜いた。時間差をつけて二連射。『博麗』は辛くも光芒をかわす。
 体勢を立て直す時間を求めて、霊夢は『博麗』を本棚の通路に飛び込ませた。飛び込む直前にビームが掠めてヒヤリとする。
「まずいわね。あの三体、かなりやるわ」
 上方よりロックオンアラート。『小悪魔改03』より苦無散弾の砲撃。『博麗』は加速してかわす。反撃にホーミングミサイルを二発。正常作動。上空の『小悪魔改03』にミサイルが迫る。
「こぁ!?」
 ECMジャミングで誘導されないと踏んでいたらしく、『小悪魔改03』は反応が遅れた。反応が遅れればそれだけ取れる選択肢が減る。距離は既に回避不能。『小悪魔改03』はホーミングミサイルを撃ち落す選択肢を選んだ。苦無散弾がミサイルを破壊する。だがミサイルもただでは破壊されないとばかりに、爆発。半身になってバズーカを撃っていたことが幸いして『小悪魔改03』はバズーカを失ったが、損傷は軽微で済んだ。
『博麗』はその間に『小悪魔改03』の下をくぐって緩やかに曲線を描いて上昇。狭い通路では攻撃をかわすのは困難との判断からだ。本棚より上空へ昇り、『博麗』は振り返った。
 同高度の少々遠い距離に『小悪魔改01』を先頭にしてナンバー順で三機が並んでいた。
「あの紅白、流石に只者じゃありませんね。……ここぁ、さーど。ヤツに『リトルデビルストライク』を掛けます」
「了解」
「こぁ」
 三機の『小悪魔改』の眼が光る。『小悪魔改03』が前に出た。左手には先のハンマーを携え、右手には――。
 ……それは剣と言うにはあまりに大きすぎた。大きく分厚く重く。そして大雑把すぎた。それはまさに鉄塊だった。
『小悪魔改03』の右手には機体サイズの、所謂『ドラゴン殺し』が携えられていた。
 如何に『博麗』とて、そんなもので攻撃されたら防御も何もなく潰されかねない。
「んなもん一体どこから出したのよ」
 霊夢が突っ込むが誰も答えない。
「行くこぁー」
『小悪魔改03』はドラゴン殺しを振り回して大見得を切り――。
「さーど、レディ……ゴーッ!」
「こぉあぁー!」
『小悪魔改01』からの号令で宙を駆ける。真正面から突撃(チャージ)を敢行。
 さらに『小悪魔改01』、『小悪魔改02』が左右に別れて苦無散弾での砲撃を開始。微妙に時間差をつけて襲来する苦無の鉄風に翻弄されながら『博麗』は長物二丁で『小悪魔改03』へ牽制射を掛け、さらにホーミングミサイルで『小悪魔改01』と『小悪魔改02』へ反撃する。
『小悪魔改03』はドラゴン殺しを盾に牽制射を強引に防いで、頭部バルカンで牽制し返しながら『博麗』への最短距離を飛ぶ。
 さらに『小悪魔改02』によるECMジャミング再び。追尾能力を失ったホーミングミサイルは何処かへと飛び去る。
「無駄無駄無駄ぁ。何発撃ったって無ー駄無駄ぁ」
 反撃とばかりに『博麗』へ撃ち込まれる苦無散弾。時間差で放たれた散弾が『博麗』を捉えた。『博麗』、被弾。だが散弾では装甲は抜けない。
「くっ!」
 しかしショックで動きが止まる。そこへ『小悪魔改03』が迫る。
「こぉ、あっ!」
 トゲ付き鉄球のハンマーが唸る。衝撃。
『博麗』はシールドで防御こそしたが、強烈な質量攻撃にたまらず吹き飛ばされた。霊夢は手早く姿勢制御を行って持ち直そうとする。そこへ『小悪魔改01』、『小悪魔改02』が苦無散弾とビームライフルで容赦なく攻撃を加える。ビームライフルの直撃を受けて『博麗』の装甲が爆ぜた。
「ああぁ!」
 火を吐いて落ちる。自動消火装置が作動、黒煙が白煙へ。胸部から煙を燻らせて『博麗』は背中から本棚の上に墜ちた。
「っ……く……っ。こんのぉ……!」
 怒気をも露わに霊夢は『博麗』を起こす。視線の先には再びフォーメーションを組む『こぁい三連星』の機影。
『博麗』は左手のスプレッドガンをビームお払い棒に持ち替えた。
 三機の小悪魔が再び踊る。


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


『博麗』の援護へ向かおうとした『霧雨』だったが、コンソールからの警告が待ったを掛けた。
 ――後方に敵機急速接近。
『霧雨』を追って、本棚の影へ『サーヴァント』が飛び込んでくる。右手には単分子ブレードを握っていた。
 魔理沙は左腕のシールドを構えながら旋回。袈裟懸けに斬り込んできた単分子ブレードが流星エンブレムの描かれたシールドに阻まれた。微細なエッジがシールドに挑み、火花と騒音を散らす。
 ミニミサイルマシンガンで反撃しようとする魔理沙だったが、敵が近すぎる上に位置が悪く、『霧雨』の左腕とシールドが邪魔して射界が確保できない。
「んなくそっ!」
 それならばと魔理沙はシールドを手前へ倒しながら機体を引いた。ブレードに体重を掛けていた『サーヴァント』がつんのめる。
 クリアになった射界とスキの生じている敵機。『霧雨』はミニミサイルをフルオート射撃でばら撒いた。炸裂する弾体が、身を庇おうと伸ばした左腕やブレードごと『サーヴァント』を撃ち倒す。
 一息つく間もなく再び接近警報。本棚によって碁盤目状に形成された通路を滑るようにして、『霧雨』の正面へ鉄の壁が、いや巨大な盾を構えた『サーヴァント』が二機滑り込んでくる。再び『霧雨』はフルオートで射撃。眼前の、『サーヴァント』を完全に隠すほどに大きな盾へ次々とミニミサイルが命中し、炸裂する。盾は歪み、焦げ目を付けるが、その後ろの『サーヴァント』にはダメージが通らない。
 レーザーライフルに持ち替えるか、それともこのままミニミサイルマシンガンで押すか。
 魔理沙は僅かに考え、射撃を続けたまま左腕をレーザーライフルへ伸ばした。二本の腕があるのだから活かさない手はない。左手が背部武器パックのレーザーライフルのグリップを掴んだ。連動してレーザーライフルの固定が解除される。引き抜かれる長い銃身。構えて、撃発。横薙ぎに振るわれた一条の光が二枚の盾を両断。
 だが、魔理沙がレーザーで盾を両断するより一瞬早く、影に居た『サーヴァント』達は跳んだ。“四機”の『サーヴァント』が盾の残骸を越えて『霧雨』に踊りかかる。
「影にもいたのか!?」
 盾持ちの背後に隠れていた二機が中空よりアサルトライフルとサブマシンガン二丁の鉄のシャワーを浴びせかけてきた。
 魔理沙はチャージに入ったレーザーライフルを武器パックへ戻しながらスラスターを噴かして急ぎ後退。下がりながらマシンガンで応射する。
 残りの二機は盾の残骸からパンツァーファウストを取り出し、気を取られている『霧雨』へ発射した。ロケット弾が『霧雨』へ迫る。
 アラートに反応した魔理沙が構えたシールドへロケット弾は命中、炸裂した。
 後退しているところに同じ方向への力を加えられ『霧雨』はバランスを崩した。背中から床へ転ぶ。勢いのまま『霧雨』は床を滑った。
 ここぞとばかりに中空の敵機が銃火を撃ち下ろす。高速弾が『霧雨』の装甲を叩き、削る。
「くそっ!」
 毒づいて魔理沙は機体を立て直しにかかった。『霧雨』は仰向け状態から宙へ浮き、頭の方へ足を振る。半回転して着地、足でブレーキを掛けながら背部スラスター点火。逆進から前進へ。弾かれたように『霧雨』が加速する。
『霧雨』は中空の敵機の下を擦れ違い、二発目のパンツァーファウストを構えた『サーヴァント』二機へマシンガンを叩き込んだ。あちこちにミニミサイルを喰らい、パーツを散らして擱座する二機の『サーヴァント』。
 魔理沙は前方の二機を撃破したところで機体を反転させた。背後から攻撃を掛けようとしていた中空の相手とロックオンが交錯する。――発砲。
 高速弾の乱打が『霧雨』とぶつかって火花を散らし、ミニミサイルの猛射が『サーヴァント』を爆砕した。
 撃ち落した二機を一瞥して、魔理沙は手早く乗機のダメージをチェックした。湖上での戦闘から今に至るまで、結構な数の攻撃を受けている。損傷状況ぐらいは確認しておかないと後が怖い。
 コンソールの表示は、『損傷拡大、しかし戦闘に支障なし』
「……まだ大丈夫か。さすが『霧雨』だ。アレだけ喰ってもなんともないぜ」
 どこかで聞いたような台詞を言ってチェック終了。
 霊夢の援護へ向かおうとして、再び接近警報に阻まれた。
「ああ、まだたくさん残ってたな。そういえば」
 魔理沙は敵が来る方向へ打って出た。本棚の影を疾駆し、滑るように通路へ飛び出す。曲がり角の右手に敵機。機影は六つ。
 いきなり現れた『霧雨』に敵機は慌てて銃器を向けるが、『霧雨』の方が早い。ミニミサイルマシンガンがフルオートで通路上の敵を蹂躙する。
 銃撃しながら『霧雨』は左腕を背部へ伸ばした。搭載された近接格闘武器を掴み、引き抜いた。機体サイズの大きさの……見紛う事なき竹箒である。
 順手から逆手へ持ち替えて起動。穂先の部分をビームが覆った。
「お掃除しちゃうぜ!」
 踏み込んで魔理沙は掃除さながらに箒を振るう。ビームで穂先をコーティングされた箒がばっさばっさと敵を掃き倒す。勢いつけ過ぎの手荒な掃除で六機撃破。
 ロックオンアラート。
 通路上の六機を排除した魔理沙を狙い、中距離から『サーヴァント』二機によるガトリングキャノンでの攻撃がくる。魔理沙はステップを踏むように、踊るようにして本棚の影へ。ビームブルームをしまって上昇。先ほどからの二次元機動から三次元機動へ。床から本棚の半ばほどの高さまで上昇して、魔理沙は通路に躍り出た。眼下には通路をそろそろと進む『サーヴァント』が二機。二機は正面に向けていたガトリングキャノンを『霧雨』へ向け直したところでミニミサイルに撃破された。
「飛べることを忘れちゃあダメだぜ」
 ちっちっち、とばかりに魔理沙は指を振った。
「お前もな。あと二十九機残ってること忘れてないか?」
 掛けられる声とロックオン。
『エイボン隊』、『ルルイエ隊』、『ナコト隊』、そして五機ばかりの『サーヴァント』が本棚の上や影から姿を現し、各々の武器を『霧雨』へ突きつけた。
 魔理沙は見事に包囲されていた。
 レーザーガンポッド、苦無ガンポッド、機関砲、アサルトライフル、ショットガン、サブマシンガン、軽機関銃、はたきが魔理沙を睨む。
「おおぅ、豪勢だぜ」
 不敵に笑って軽口を叩く。ロックオンアラートの表示で『霧雨』のモニターは賑やかになっていた。
 魔理沙は手早くコンソールを操作。操作に従って、『霧雨』のFCSが射程内の敵機を次々にロックオンしていく。
「この全方位攻撃、かわせるものならかわしてみろ!」
「その前に撃たせないぜっと」
『霧雨』、『スターダストレヴァリエ』発射。『霧雨』から八方へ、物理的な威力を持った星屑幻想が散っていく。
 一撃で『ゲートキーパーズ』を殲滅した攻撃は、今回も遺憾なくその威力を発揮し、敵包囲網をまとめて叩き落した。
「……数が多すぎたか」
 コンソールディスプレイを通して『霧雨』は魔理沙に撃ち漏らしがいることを伝えてきた。後方に残敵の影が八つ。
 ――ロックオンアラート!
 背後へ向き直った『霧雨』を薄い青みを帯びた白い光が襲った。光速の攻撃。回避不能。僅か0.7秒の照射で『霧雨』の腰部表面装甲が灼ける。
「おぅッ!?」
 ダメージ警告がけたたましく鳴り響くのと、魔理沙が機体を急降下させて本棚の林へ逃げるのはほぼ同時だった。
 離脱する『霧雨』を逃がさぬとばかりに、レーザーガンポッドを抱えた『エイボン隊』機が追撃する。八機はロックオンするが早いかレーザーを放つ。八条の青い光線が一瞬前まで『霧雨』が居た空間を灼き貫いた。
「エイボン隊、全機散開。ツーマンセルに別れて取り囲め。無理に落そうとするな。『大図書館』が来るまで持ちこたえればそれでいい」
 隊長機の指示に従って、八機は四組に別れて『霧雨』を追う。
「スキを見せたら落して構わん。二秒も照射すればそれで終わりだ」
 青の熱線が黒白の機体を求めて虚空を灼く。
 いくら『霧雨』が速いとはいえ光とは競争できない。レーザーはロックオンアラートが鳴って一、二秒で発射され、その瞬間に『霧雨』を灼く。
「キツイぜ」
『霧雨』は既に装甲の数箇所に焦げ目と熔け痕を作っていた。
 ロックオンアラートをアテにした結果だ。アラートを聞いてから避けたのでは遅いということを、魔理沙は身をもって学習した。
 今は殺気を感じるなり即座に急機動を取ってレーザーの射線上から逃れることで辛うじて凌いでいる。
 そう何時までも続けていられるものではない。射程外へ逃れなければいずれ殺られる。
『エイボン隊』もそれが分かっているので最大推力で『霧雨』へ食い下がる。
「火を吐いて墜ちろ」
「冗談」
 魔理沙、当てずっぽうに背後へ銃撃。当たらない。
「機体出力が全開ならとっとと振り切ってやるってのに……」
 歯噛みして魔理沙はコンソールディスプレイを見る。『スターダストレヴァリエ』でダウンしたパワーが復調するまであと100秒。
「挑戦的な数字だぜ」
 位置を変え、高度を変え、レーザーの演出の中を『霧雨』は踊る。


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 ヴワル魔法図書館大格納庫では、『大図書館』の整備と戦闘準備に十人以上の整備メイドが慌しく動いていた。『サーヴァント』や『小悪魔改』などと比べ、『大図書館』は遥かに大きな機体だ。その大きさに比例して、整備や戦闘準備の手間も増している。
 パチュリーは愛機の操縦席に座り、ぼんやりとした目つきで全周囲モニター越しにその光景を見ていた。手には読みかけの本を携えて目を落し、時折ページをめくる。パチュリー一人だけのコクピットに紙の擦れる音がする。

「属性符カートリッジは装填した!?」
「火水木金土、五種装填よし!」
「レーザーパック装填よし!」
「機体各部調整、チェック完了!」

 機外で飛び交う怒声をぼんやりと耳にしながらパチュリーは手の中の本に意識の大半を割いていた。これから鉄火場へ出て行くとは思えない呑気さだ。ぺらりぱらりとページをめくり、記された文字を読み、知識として自身へ蓄えていく。
「『大図書館』戦闘準備完了!」
 整備メイド班長より完了報告を受け、パチュリーは読んでいた本に栞を挟んで閉じた。「ふう」と一息ついて、機体を起動させる。
「機関始動。出力50%」
 パチュリーの音声を認識して『大図書館』がにわかに動き始めた。コンソールディスプレイに機関を始動し、出力を50%に引き上げ維持していることが表示される。
 パチュリーは『大図書館』を発進させた。見上げるような、鋼鉄の山めいた巨躯が格納庫を雄々しく歩む。巨人の足音を響かせながら『大図書館』は発進口に到着。
 管制室からの発進許可を待って、パチュリーは『大図書館』の出力を引き上げた。出力80%。鋼の山がふわりと浮き上がる。
「『大図書館』、出るわ」
『大図書館』が出撃する。風に乗って運ばれる綿毛の様な、巨躯に似合わない軽やかさで。



To be continued...


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