魔法の森に、げーぎょっぎょっぎょっ、と得体の知れない怪鳥(あるいは獣)の鳴き声が響く。
 鬱蒼とした深い森は木の葉のカーテンが日光を遮り真昼間でも薄暗い。そして、薄気味悪い。
 得体の知れない鳥獣その他妖怪などが跋扈しているとなればなおさらである。

 霧雨魔理沙はそんな薄気味悪い魔法の森に居を構えていた。
 開けた場所にでんとそびえる霧雨邸。少女が一人で住むには些か広すぎる物件だ。

 さて、そんな霧雨邸。
 もうお日様が高く昇っているってのに、窓は締め切りカーテンも閉めッきり。
 はてさて住人の魔理沙は何をしておるのん? お出かけでもしてるのん?
 と外から見ると首を傾げる風情である。
 はてさて霧雨魔理沙は出かけて留守なのであろうか?
 いやいや留守ではないのです。
 玄関のカギは掛かってませんでした。

「ん……。すー…………」

 足の踏み場が辛うじて存在する程度の散らかり様の霧雨邸内部。
 魔理沙は寝室の、その周辺だけは周囲より三割ましで片付けられているベッドで眠っていた。
 シーツを被ってすうすう寝息を立てている。

「んん……」

 もぞもぞと寝返りを打つ魔理沙さん。寝苦しいのでしょうか。
 ベッドの周りにはトレードマークの帽子を筆頭に、エプロン、ベスト、スカート、靴下、靴、ブラウスが脱ぎ捨てられてます。
 どうやら下着だけで寝ている様子であります。わくわく。

「くー……すー……」

 絹糸のような金髪が白いシーツに広がっています。つやつやしてとても綺麗です。
 思わず手にとって梳いてみたくなっちゃいますね。

「ん……くすぐったぃ……」

 っと、無意識に梳いちゃってましたよ。あぶないあぶない。自重しなくては。自重するぞ自重するぞ、と。

「……ふむぅ……」

 起きるかと思いきや、ごろんとうつ伏せになる眠り姫。
 無防備な細い肩が、寝汗で金糸の張り付いた項がのぞいてます。――美味しそうです。
 ちょっとぐらい味見してみようかな、なんて。――甘ぁい……。

「んんぅ……」

 あ、ついつい舐めちゃいました。いけないいけない。あぶないあぶない。
 再び寝返りを打つ魔理沙さん。うつ伏せから仰向けに。
 ……結構起きないもんですね。

「……くー……」

 ――やばいです。
 理性がちょっとぐらぐら来てます。
 今の魔理沙さんの格好はキャミソールとドロワーズです。胸元が大分見えてます。
 ――――ええ、胸元が見えてます。
 ほんのり寝汗の浮いた乙女の柔肌です。青い果実です。手にとって眺め、弄び、頬擦りしたくなるような果実です。

 それが、ノーガードで、目の前に、あります。

 ――――――ちょっとぐらいならいいよね。結構起きないし。起きてきそうな気配ないし。
 据え膳喰わぬは女の恥と言いますし……。

「んひぃっ! …………な、なにしてるんだ、射命丸文」

 あ、起きちゃいました?

「人の家で何を、いや、私に何をしようとしてんだお前は」

 いやー、幻想郷名所めぐりってことで霧雨魔法店の取材に来たんですけど。

「それがなんで勝手に上がって人の事襲ってんだよ」

 えーと……据え膳?

「あのな」

 あ、もしかして怒ってます?

「明け方まで実験してな、ベッドに入って気持ちよく眠ってるところ胸舐めて起こされて怒らないやつがいると思うか?」

 ……えーと。

「何か言い訳はあるか」

 実はこれマッサージの一環アルヨ。疲労回復によく効くマッサージですだよ。

「そーなのかー」

 そーですだよー。




 きっかり五秒後、マスタースパークの一閃が魔法の森を震わせた。





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