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蓬莱の人の形『藤原妹紅』は不死身の人間である。 彼女を不死身にした蓬莱の薬を作ったのは、蓬莱山輝夜と八意永琳である。 藤原妹紅は、彼女を消そうとする輝夜を相手に不死身同士の殺し合いをするのだ。 ――チタンあるみナイド一番機、kt-21ぷれぜんつ―― 「薬は注射より飲むに限るわね。妹紅」 「くす、り……?」 「永琳がね、貴女の不死鳥を封じる薬を作ったのよ。正確には薬じゃないらしいけど、分かりやすいから薬ってことで。 もちろんリザレクションすれば治る様なヤワな代物じゃないわ」 「そんなデタラメ……くそ……っ」 ――不死鳥を封じられた藤原妹紅。 「うふふ。どうしてあげようかしらねえ。 そうだ。せっかくだから一度殺した後、うちで囲ってあげましょう。大人しくしていればそのうち解毒剤をあげるってことで」 「ふざけないで。誰がお前の囲われ者になんか」 「ちゃんと大義名分はつけてあげるわよ。逆らったら死ぬほど痛い思いをするように体質を変えたりして」 ――彼女の危機に現れたのは…… 「うん、悪者はあなたね」 文々。新聞や幻想郷縁起でしか見たことがない幻想郷でも最強クラスの危険人物がそこにいた。 フランドール・スカーレット。 悪魔の妹。ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持ち、情緒不安定な吸血鬼。 目が覚めると知らない場所に居た。 自分の家ではない天井。寝ているのは布団でなくベッド。 「……どこ、ここ?」 目覚めきらない様子で妹紅は言い、 「私の部屋。そこはベッド」 自分のものではない声に急速に覚醒した。 ――輝夜。薬。そしてフランドール・スカーレット。 がば、と身体を起こす。掛けられていたシーツが落ち、妹紅は自分の裸身と対面した。 ――弱った妹紅を紅魔館は客人として招く。 「ではどうあっても妹紅を引き渡すつもりはないと」 「逗留中の客をその敵性勢力に引き渡すような紅魔館じゃあないんでね」 「それは逗留が終われば引き渡してもらえるって解釈でいいのかしら?」 「……紅魔館は客をその敵に渡したりはしない。客が屋敷から去っていってもそれを売るようなマネはしない。言葉遊びがしたいんなら帰って」 「暗に引き渡しのタイミングを打診してるのかと思ったのだけれど」 「馬鹿じゃないの。真っ当に言葉を聞きなさいよ」 「あらら。怒られちゃった」 ――決裂する紅魔館と永遠亭の会談。そして残された封書。 『本日より一週間以内に藤原妹紅の身柄が紅魔館より引き渡されない場合、永遠亭は紅魔館に対し、宣戦を布告する』 それは最後通牒と呼ばれるものだった。 「……『スーパーシルフ』より『オーディン』へ。月は動き出した」 ――ここに紅魔館と永遠亭の全面戦争が勃発した。 「これより紅魔館は永遠亭と戦闘を開始する」 《『鷹の眼』より西門防衛メイド隊へ。これより守護天使より支援砲撃が行く。炸裂高度は二千だ。速やかに高度を二千以下へ落とせ》 「す、スーパーシルフよりオーディン! スーパーシルフよりオーディン! こ、攻撃隊が!」 「いくら紅魔館でも、当主と引き換えなら客人を差し出すでしょう」 「間に合ったこぁ!」 「正門と西門に戦力を重点的に配置して、北門は残余で賄う。東門は切るか、遊撃部隊を作ってそれに火消しをさせる。……どうかしら?」 「大丈夫かしら、イナバ」 「私の弟子は優秀です」 「使い魔つき二個小隊を相手に! 門番は何をしている!」 「使い魔には妖怪の攻撃が効きません。当たらないんです!」 「今のお前は我が家のメイドだ。主人の命令に従え。そして守られろ」 「増援を! もはや我、戦力なし!」 「誰か苦無弾をよこせ! 早く!」 「そういえば昨日の業務日誌付け忘れた」 「じゃあ帰ったら三人でつけましょうか」 「……さって。頼まれちゃったものはしょうがない。あいつのお願いを聞かなくっちゃねえ」 「背中預けました」 「丁重に預かるわ」 「もう逃げない。裏切らない。それが……私の尊厳だから」 《偵察員『スウィート・ルナ』よりオーディンへ。時計塔に誰か居る。二人だ。人員を配置したのか? 確認されたし》 「大丈夫だよ。妹紅は私が守るから」 上白沢慧音は新聞を閉じ、たたんでちゃぶ台の上に置いた。 「……なるほどな、そういうことだったのか」 「まあそういう事なんだよ慧音」 ちゃぶ台を挟んだ向こうに、ゆったりと茶を啜る藤原妹紅の姿があった。 『紅魔館上空に不死鳥を見た』
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