「決まってるじゃない。
こんな逸材、死神になんか渡してやらないんだから」





 始めに、本と書架があった。


「ここ。お前以外に誰かいるのか?」
「……何をいってるの?」
 ぴくり、とパチュリーは次の本へ手を伸ばしたところで動きを止めた。普段であればそ
の膨大な知識によって即答するところだったが、それは意外なほどに意外な質問だった。

なにしろ自分以外の存在について聞かれているのだ。
「私以外に、誰かいるのかしら。ここ」
「いやだって、さっき見かけたぜ。羽と尻尾生やした、赤い髪の女の子」


 ―――それは、ある意味では必然的な出会い。


 薄暗い、どこか古びた香りのする空間。
 天蓋は紅く、空さえも映さない。


「……なるほど、そういうことね」
「何がだ?」
 パチュリーが初めて愁眉を開いた。その顔に怪訝なものを覚え、魔理沙が問う。


 点在する燭台が黄金の光を放っているものの、それも全ての闇を払うには至らない。
 むしろ書架の森と赤い内装に阻まれて、逆に闇に飲み込まれるような心地すらした。
 ―――それが、彼女≠フ初めに見た風景だった。


 パチュリーが手を翳すと、無数の青い光が半裸の小悪魔の表面を走っては消えていく。
 何を得たのか、パチュリーが面白そうな顔をした。うっすらと笑みを浮かべて、少しず
つ手を動かしている。それに合わせて光も動いているようだった。
「……ふうん。意外に大きな中身をしてるわ」
「ほう。大物だったりするのか?」
「まだ何とも……触媒が足りないから大掛かりな解析は無理ね。あまり使わないから補充
するのを忘れていたわ。そっちも持ってないでしょ、構造解析なんてデリケートな魔法は
使えないでしょうから」
「私は派手な魔法の方が好きなんだ。ちまちましたのは肩がこるぜ」
 パチュリーの揶揄するような言葉に、魔理沙は澄ました顔で応じた。


 まるで運命をたぐるように、最悪の機会と最良の契約は巡り―――


 読み終えたもの、知識を得たと言う証明の産物。
 わけもなく、不思議な感情がこみ上げてくる。
 それが喜びだと知ったのは後の話だが、ともあれ彼女≠ヘ行動を開始した。
 そっと本を手に取り、左手に抱え、重ねていく。


「おい、しっかりしろ!!」
 その場を高速で離脱しながら、魔理沙が呼びかける。その顔には焦燥が色濃く見える。
小悪魔は荒い息を繰り返すだけで返答はできない。ただ力なく垂れた手で、魔理沙の服の
裾を握るだけだった。
 まずい。魔理沙はそう感じた。
 何をどうすればいいか分からない―――パチュリーの顔が浮かぶ。
「あいつなら―――」
 呟いて舵を切り、パチュリーの元へ向かう。
 ―――背後に奇怪な気配が現れた。


 ここに、所蔵されない一つの物語を創った。




「ねえ、あなた―――生きたい? 等価交換と行きましょう」




 〜 Engage 〜
 presented by sekaiya




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