「何が後退だ。大攻勢のたびに後退してたらベルリンが戦場だ」

「全くです」




「こぁ姉に霖ちゃんから伝言。シュネルフォイヤー入ったってさ」




   「――森近さん、これいくらですか?」
   「そうだね……このぐらいかな」
   「ではそれでいただけますか」
   「ちょっと待って。私が先に見てたのよ」



「鈴仙さん、これで決めましょうか」
「左腋に下げてる物は、飾りじゃないですよね?」
「――いいわ」



「鈴仙さん! それルール違反じゃないですか!?」
「ルール違反じゃないわ。これは私のブレザーの機能。
九パラなんかじゃ抜けないわよ。大人しく降参したら?」
「――ならその自信もろとも葬って差し上げますよ」



「バカスカ撃ってくれちゃって。数撃てばいいってものでもないんですよ」
 撃ち尽くしたマガジンを捨てて、半端に残ったマガジンを叩き込む。
 トグルを引いて薬室へ初弾を装填。
「かく言う私も、九発も撃っちゃいましたけど……」



「鈴仙さん。今、自分がどんな顔をしてるか分かりますか」
「……なに」
「戦うのが愉しい。自分を火線に晒し、
危険の中で敵を撃つのが愉しくてたまらない、
そういう顔です」
「私は……そんな顔してない」
「ならば、なぜ笑ってるんです?」


「――そそりますよ」





「……私は戦うために育てられた」
「依姫様に育てられ、戦い方を教えられて……」
「でも、私は戦わずに逃げてしまった。怖かったから」
「戦う事なんかしたくなかったのに。それなのに……」
「身体がね、戦いたいって言うの。教え込まれ、叩き込まれ、身に付いた技術を、力を使いたい。
 存分に振るいたいって。だから、私は銃が欲しいの。身体に鉄を帯びて、いつでもその力を、
 技術を使えるようにしていたい。そうすると落ち着くから……」
「だから、私に――」



「もう結構です」
――青く若くて酷く利己的。
 そんな脱走兵に。
 あの地獄で義務を果たし続けた兵士達の魂を、ビス一本でも渡してやれない。








「貴女は逃げるべきじゃなかった。戦って、本分を尽くせばよかったんです」







『我が魂、ヴァルハラに逝かず』











ばぁん……
inserted by FC2 system