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咲夜は最近妙な夢を見る。知らない誰かが呼びかけてくるのだ。 「×××、ヘルメットを着けろ。×××――!」 その誰かは咲夜のものではない、しかし覚えのある名前で呼びかけてくる。 夢の中の咲夜はその声に答えない。答えようと思った事もあるが、不思議と声は出なかった。 夢の中なんて、そんなものかも知れない。 そして今日も同じ夢を見た。見知らぬ場所で、見知らぬ誰かが名前を呼ぶ。 ――チタンあるみナイド、kt-21ぷれぜんつ―― 影が立体化したような、黒一色の人型。 甲冑を着込んだ武人を思わせる輪郭の中、紅く光る眼。 正体不明の敵性体が紅魔館を襲撃する。 門を破り、邸内を蹂躙し、人型は奥へと踏み入っていく。 狙いは一つ、紅魔館唯一の人間の命。 斬っても刺しても死なず、ただただ咲夜を殺そうとする襲撃者。 地獄からやってきた鉄騎兵が、執拗に咲夜を追い続ける。 ――まるで犬のように。 『なぜ逃げた』 『なぜ戦わなかった』 『なぜお前だけ生きている』 雷鳴の如く銃火が轟き、電気鋸に掛けられた血肉が飛び散る。 レミリアが灰燼と帰し、美鈴が串刺しにされ、フランドールが首をもがれる。 咲夜の首に刻まれた手形が疼き、自覚のない咎人を苛む。 逃げる咲夜。追う人型。 追い詰められた無縁塚、十六夜咲夜は問い掛ける。 「何故。何故、お前は私を殺そうとする……」 「お前は一体」 「なんなんだッ!」 返る答えは7.92ミリの鉄の雨。 『魔犬の咆哮』
影のように黒いヒトガタが、怨嗟に満ちた紅い眼鏡を光らせる。 |